私の友人の話


彼には息子がいる
その息子は幼い頃から野球を始めた



夢はプロ野球選手



毎日 毎日 息子はバッドを振り続けた
親もそんな息子を応援し 休みの日は野球の送迎
親も息子の夢を応援し続けた



中学に入学しても 息子は野球部には入らなかった
学校の部活よりも更にレベルの高い 家から遠く離れた野球塾に毎日通った



母親は 毎日学校が終わる頃に 息子を迎えに行き
その野球塾に通わせた
母親が作ったオニギリを車の中で食べ 野球塾に参加し
帰りの車の中で 学校の宿題をした
家に帰ると 夜遅くまで素振りをしていた



そんな息子は高校生になった
息子が選んだのは 甲子園常連校
当然 部員数もハンパない




息子は高校3年生になった




春の大会
彼はベンチではなくアルプススタンドにいた
そして 最後の夏の大会のベンチ入りのメンバーに選ばれる事はなかった



結局 息子は1度も背番号を背負う事はなかった



残酷なもので 選ばれなかった3年生は本戦までの遠征に参加できなくなる
ベンチ入りメンバーと次の世代が遠征に行ったり 練習試合に出る
メンバーから漏れた3年生は雑用係になり 練習すら出来なくなる



最後の大会のメンバー発表があった日
何年も日課となっていた夜の素振りをしなかった



父親と母親にメンバーに選ばれなかった事を伝えた
そして 両親に息子は言った




今まで俺の野球を応援してくれてありがとう
ケガのない丈夫な身体に育ててくれてありがとう



本人はそう淡々と話した
両親の目から涙が溢れていた



普通の高校の野球部なら 間違いなくレギュラーになっていたし キャプテンにもなっていただろう
誰よりも努力をし 誰よりも練習したと胸を張って言える
そんな息子が3年間で1度も背番号を背負う事がなかったのが 不憫でならなかった



もし 悔いが残るなら 大学行って野球しても良いんだよ
そう父親が言うと



いや 悔いはないよ
お父さん お母さんにここまで協力してもらって
真剣に野球をしてきた
それで ダメだったのだから仕方がないよ
野球はもう辞めるよ




涙を流す両親に対し
晴れ晴れとした表情をしている息子
本当にやり尽くしたのだろう




将来はプロ野球選手



小学校の文集
中学校の文集
に書かれてある夢


その夢がここで終わった




もうすぐ 甲子園大会の予選が始まる
各地方で熱戦が繰り広げられる
グラウンドに照りつける太陽
グラウンドに弾ける汗
グラウンドに零れ落ちる涙
それにたどり着く事すら許されない選手も数多くいる
改めてそんな事を感じた





正直 送迎とか 遠征の同行とか かなりの負担だったけど
終わってみれば 寂しいもんだよなー
俺たち親も 息子に夢を見させてもらった気がする




友人は私にそう言いながら笑った






今 息子の机の上に






2018年 公務員試験対策


がある



息子は今まで素振りしていた時間 バットから鉛筆に持ち替え 公務員試験に合格する為に頑張っている



結果はどうであれ
何かをやり切った人は強い




描いた夢は形を変えて 照りつける太陽と共に降り注ぐ








夏はもうそこまで来ている