切っても切っても切れないもの
切っても切っても切れないものなーんだ?
親戚の集まりで知り合いがやってるレストランに行った時、4年生の姪っ子に質問された。
ふふふ、お嬢ちゃん、
大人を舐めちゃいけないよ。
小学校の時「なぞなぞ王」の異名を持っていたこの僕に挑戦する気かい?
注文したハンバーグが届くまでの暇つぶし。
さて、どう料理してやろうか。
切っても切っても切れないもの?
僕は一呼吸置いた後、自信たっぷりに答えた。
僕「じゃっ、蛇口の水ぅぅぅぅぅっっっ!!」
姪っ子「・・・・ブー!不正解!!」
なにっ、どういう事だ?
納得はいかないが、なぞなぞ界で昔から「切っても切っても切れないもの」の解答は「水」と相場がきまっているのだ。
正解は・・・「絆」でした~!
・・・・・
何て恥ずかしい事をしてしまったのだろう。
僕は自分のなぞなぞ脳を恨んだ。
何が蛇口の水だよバカヤロウ。
僕は後悔と同時に少し安堵した。
そこでもし「長州小力」とか答えて「キレてないですよ」とか古いボケをかまそうモノなら、きっとこの場はツンドラ気候の夜より冷え込んでいたに違いない。
僕は目の前に届いたばかりのハンバーグを一口味わった。
それにしてもだ
4年生に「絆」とか言われる始末。
そう、切っても切れない結びつきというものがこの世にはあるんだ。
まったく情けない
何が「蛇口の水」だよバカヤロウ
この店のハンバーグは実に味わい深い。
世の中に切っても切っても切れない結びつきがあるように、ハンバーグを口に含んだ僕はふとある男を思い出した。
今日は親友の「バーグ」を紹介しよう。
「ファミレスでハンバーグしか注文しない」という謎の自慢話をしたことから彼はハンバーグというあだ名になり、今では省略されてバーグと呼ばれている。
大柄なガッチリ体型でイカツイ顔にヒゲ坊主。オシャレなのだが、オラオラ系の肉肉しい風貌はハンバーグと呼ばれるにふさわしい。
バーグの趣味はアニメ観賞とスイーツ。
そのオラオラ系な風貌からは想像もつかないファニーな趣味。
街中では鋭い眼光を放つ彼も、家に帰ると子鹿のように嫁に甘え、ニヤニヤしながら美少女アニメに萌え萌えしている。
なんとも憎めない奴だ。
萌え系アニメに特に興味のない僕にとって、バーグの趣味は理解できない。しかし僕らには「自転車」という共通の趣味もあった。
暇な時に連絡を取り合い、お互いが食べたいと思ったものを2人で自転車に乗って食べに行くというのが僕らの日常だ。
その日もまたバーグから召集の連絡がきた。
バ「カジノ今日暇か」
僕「うん、特に何もないよ」
バ「天気も良いし・・・行こうぜ」
僕「オッケー!何食べる?」
バ「オレ・・・パフェ食べたい」
これが「ハンバーグ以外注文する奴は男じゃない」などと豪語していた男のセリフだろうか。
彼は何十万とするロードバイクを買ったばかりで乗りたくてウズウズしているのだろう。
「自転車に乗って男2人でパフェを食べに行く」という彼の企画に僕はGOを出した。
バ「さすがカジノ、話が早い!
ちょうど行きたかったカフェがあるねん」
ふと嫌な予感が頭をよぎった。
そう、僕は甘かったんだ。
僕「で、その店ってどこ?」
バ「ああ、確か・・・ニシナリ」
予感は的中した。
関西圏の方ならご存知だと思う。
そう、そこは聖地ニシナリ。
僕らのような甘ちゃんが生半可な気持ちで足を踏み入れてはいけない土地だ。
(西成の人すみません)
そこでは前歯のない危険な香りが漂うおじさんが路上でブルーシートを広げた店を出し、
「半年前の少年ジャンプ」
「片方だけの軍手」
「使い古した電池」
なんてものがマジで売られている。
そんな無法者が存在する土地に「パフェが食べたい」なんていう理由で僕らは踏み込もうとしている。
丸腰の上、自転車でだ。
僕らは地雷の埋まっていそうな危険エリアを回避しながら西成のとあるカフェに向かった。
バーグ自慢のロードバイクは快調で、彼の巨体が颯爽と街を駆け抜けた。
その店のパフェは普通に美味しかった。
大してスイーツ好きではない僕の感想はその程度。しかし目の前ではバーグがいつになく饒舌になっている。
バ「舌先でジュレを潰した時に広がるちょっとした苦味とチョコレートの甘みがマッチして何とも言えない上品さが・・・」
ウザい
実にウザい
僕は聞き流していたが、バーグはご機嫌だ。
僕「なぁ、今からどうする?」
バ「そやなぁ、チャリでブラブラ西成の見学でもしよっか。オモロそうやん?」
僕らは店を出て自転車に跨ろうとした。
バーグはご機嫌だ。
しかしその幸せな時は長く続かなかった。
バーグの声が響いた
「あれっ・・しゃ・さどっ、むろっ!?」
言葉にできない
ラーラーラー
ララーラー
という小田和正の声が聞こえてきた気がした。
何があったか説明しよう。
バーグの自転車のサドルが盗まれていたのだ。
それだけではない。
サドルが盗まれて、
代わりに・・・
ブロッコリーが刺さっていた
僕らはただ無言で自転車のサドルの穴に刺さったブロッコリーを眺めていた。
青々とした大きなブロッコリーだった。
大地の恵みと太陽の恩恵を受け大きくたくましく育ったブロッコリーが目の前にあったのだ。
この世のありとあらゆる不条理な現実に向かってツッコミを入れる時の定番のセリフがここ関西にはある。
バーグはブロッコリーに向かって叫んだ。
「なんでやねんっ!」
僕はこんなに正当な「なんでやねん」を初めて聞いた気がする。
ロードバイクのサドルは六角レンチが無いと外せない。つまり犯人は六角レンチとブロッコリーを持ってこの現場に現れたという事になる。
こんなことがあるだろうか?
きっとそんな不条理全てを含んだ上で出た解答が「なんでやねんっ!」だったのだろう。
こんな状況の中、僕はなかなか切り出せずにいた質問を彼に投げかけた。
さっきと同じ質問だが意味は全く違う。
僕「なぁ・・・今からどうする?」
バ「・・・
お前、先に帰っといて・・・
オレ警察行ってから電車で帰るわ・・・」
そう言って彼はブロッコリーの刺さったピカピカの自転車を押しながらトボトボと歩いていった。
絶望感
人生分からないものだ
さっきまで機嫌よくスイーツのウンチクを語っていた男が、数分後には放心状態でブロッコリーの刺さった自転車を押しているなんて誰が想像出来ただろう。
ブロッコリーが刺さった自転車を見て警察官はどんな対応をするのかな?
僕は帰り道そんな事を考えていた。
この店のハンバーグは実に味わい深い。
アツアツのハンバーグを食べながら僕は絶望にあふれたあの日のバーグの背中を思い出していた。
切っても切っても切れないものなーんだ?
そう、確かに答えは「絆」なんだろう。
世の中には、決して切り離せないものがあるんだ。
僕はハンバーグの隣に添えられているものに手を伸ばした。
デミグラスソースに絡めると、より一層味が引き立つ名脇役。
主役ってのはいつだって名脇役がいるから引き立つもんなんだ。
「やっぱりハンバーグにはブロッコリーが良く合うなぁ」
切っても切っても切れない結びつき
どうやら僕は4年生の姪っ子にまた1つ教えられたみたいだ。
コメント
2021/10/08 0:48
21. >>19 月☽︎︎.*·̩͙さん
本当にニシナリ恐るべしです。
警察署には当時僕は同行していないので詳細は分からないんだけど、後日バーグに「あの後どうだった?」と聞くと「警察のお兄さんが優しくしてくれた」などと言うどうでも感想を返されました。
まるで初体験を終えた女子高生のようですが、ただのビビりなガチムチの丸坊主です。
返コメ
2021/10/08 0:40
20. >>18 エロピュアで明るいコミュ障の意識他界系男子さん
すみません、コメント見逃してました!
2年越しの返コメをお許しください。
一瞬の判断でエロビのリモコン切り、あるあるですね!僕はその時の心情を「スピードの向こう側」と呼んでいます。ちなみに一度リモコン操作に失敗して一時停止を押してしまい、局部アップの場面の静止画がテレビに映し出され母子間でとても気まずい空気になった事があります。世界史風に言えば「アナーニ事件」ってやつです。
返コメ
2021/10/07 22:32
19. 西成恐るべし…ですね
さすがに生活保護受給者No.1の聖地ですものね バーグさんも 気絶しそうになったかもですね
あれから サドルは 何処へ…
まー闇市 みたいなので おっちゃん達が売買してるんでしょうけど 西成署行っても相手にされたんでしょうか? 盗難届提出して ただおまわりさん 探す気ないかもですよねー
だって ここは 西成ですやん!
置いてる方が 悪いやん!
みたいな…
1回位は おっちゃん達と目を合わさないように
見物してみたいですww
返コメ
2019/05/24 9:21
18.
切っても切れないもの…
…
スケベなビデオを見て●●●してたら、
イキナリ親がコンコンコン『入るわよ~』って言って部屋に侵入してきた時に必死でリモコンの切ボタン押しまくった時の心情…
小4には大人な世界過ぎて理解されませんね。。
返コメ
2018/04/22 19:41
16. >>15 遊タン♂さん
遊タン読んでくれてありがとう!
カジノワールドお楽しみいただけましたか?
そんな文才に満ち溢れた天才イケメンだなんて褒めすぎだってばよ!(言ってない)
また新作書いたら読んでくださいね~!
返コメ
2018/04/22 18:53
15. 文章からその場面をイメージできる
一瞬でカジノワールドに引き込まれる
スゴい日記だ!って思いました(*´ω`*)
次の日記も楽しみにしてます!!!
返コメ
2018/04/18 22:09
14. >>13 はるるさん
コメントありがとうございます!
そうそう、僕に似て純粋なんですよねぇ。
悪い大人に騙されないように気をつけてもらいたいもんです。
チョコレートパフェを食べたバーグのサドルをもらったお返しにブロッコリーをプレゼント、ホワイトデーのお返し感覚ですね
僕の推理によると犯人はきっとチョコを大量にもらう色男です
返コメ
2018/04/18 21:50
13. なんて純粋な姪っ子さん!
大人になると、
「絆は時として切れるんだよ」
とか、思っちゃうのです(✽´ཫ`✽)
そして、
そのブロッコリーのイタズラをした犯人。
律儀ですね~
だって、サドルを盗むだけでも良かったのに、わざわざブロッコリーをプレゼント?
物々交換ですね(´∇`)
返コメ
2018/04/18 15:26
12. >>11 茶瞳さん
コメントありがとうございます^ ^
読んで長く感じないって言っていただけると素直に嬉しいですね!
数年前に、こんなイタズラが流行って被害者が出てるっていうのをニュースか何かで見ました。その時に「あーっ!バーグがされたやつーっ!!」っと思ったのを覚えています(笑)
返コメ
2018/04/18 12:10
11. こんにちは(*^^*)
オススメされていたので読んでみたらまぁびっくり♪
長文を長文と感じさせない文才、とてもうらやましいです(人´∀`*)
ところで関西ではサドル部分とブロッコリーの物々交換が流行っているのですか?w
少し前に関西の芸人さんがテレビでそう話してるのを観たので(・∀・)
返コメ