Heartstrings
40代半ば  東京都
2022/10/30 23:04
Heartstrings

君は何を思ったのだろう
真冬の待ち合わせ場所に向かう車の中で

長い沈黙を破ったのは私の方
用件は何ですか?
他人行儀の短い君からの返信に
用件はありません、懐かしい顔が見たくなったんだと思います
素直に書いた短く応えて
待ち合わせは区役所のフリースペースを考えていました
諦めた私は本音を補足した

やはり、再会はない方がいいと思いながらの日々が過ぎた
沈黙の心の繋がりも終わったのだと思った
年が明けた寒い冬に終わったはずの沈黙の繋がり
春を待ちながら
いつも通りの平らな時間を
それなりに愉しんむことにも慣れていた
月が変わる少し前
数日前に受信していた君からのメールに気づいた

いつから
私はあなたを君と書くようになったのだろう
理由も分からない
沈黙の年月の中で
貴方は私の中で
"あなた"より"君"という存在に変わっていたようだ
性別を超えた存在に変わったのだろう

バレンタインデーの一日前
開いたばかりの平日の区役所に向かう
君は何を思いながら
待ち合わせ場所に向かったのだろう

私が先に着いて
自動販売機から落ちてきた温かいミルクティーで冷えた手を温めながら、冷静すぎる心音に気づく
斜め後ろのスーツ姿が目に入った
あ…、懐かしい顔だ
こっちだよ、と私から声をかける
ここら寒いな、と君が目の前に座るかと思いきや
俺もコーヒー買ってこよ
君が自動販売機の前に立つ
振り向いた君が、なんか飲む?と私に聞く
これで平気、と手に持ったミルクティーを見せた
コーヒーを手に向かいあった久々ぶりの君と私
沈黙の10年はなかったかのようだ

なんかさ、歳とると身内がざわつくよな
君が苦笑いする
再会の挨拶などない
思い切り同調した私が
だね、なんか、こっち側は嫌な感じになっきたよ
私も苦笑いしながら、再会の挨拶などない

そっちも?マジかぁ、君が笑う
ミルクティーから伝わる温もりが薄らいだなぁ、と感じた頃
ここ寒くない?どっかないの?近くにカフェとか、、
君はジャケットを着たままだ
昔から君がコート嫌いなのは変わらずだ
さぁ?ここ、来たの2回目だもん、と相変わらず気遣い無しの私だ
変わってないな、、君が言う
お互いにね、私が返す

寒さを言い訳に、さりげなく殺風景な区役所からカフェに移動を促す君も君のままだ

肩を並べて数分歩いて、色気のないカフェに入る
何にする?朝メシ食った?
あ、何か食べる
飲み物は?
ミルクティー
先、座ってな
うん
遠慮がないのも昔のまま

朝食を一緒にたべながらの他愛もない会話
細かいことには触れない暗黙のルール
俺、コーヒー飲むけど、何か飲む?
ミルクティー
君は私を絶対に"お前"と呼ばないのも変わらず
昔から無いのだ、私の呼び名は君には無いのだ

次に会う約束などなく、まだお昼になる前に
来てくれてありがとう、懐かしかった
おう、俺、車
私は電車
が別れ際の挨拶だった

あの日から
私にはいろんな別れが立て続けに起こった
長い沈黙のHeartstringは不思議だ
何があってもお互いに連絡しなかった年月は
ほんの1時間ほどの朝食の再会から少し形を変えた

私が一人、奔走中に君からメールが来たりする
何かあった?
みたいな短いメールばかり
大丈夫だよ、と返すと
何かあったな、と君には昔から気づかれていたようだ
俺に出来る事なら言って
ありがたいというか、素直に心強いと伝える

重なり続ける私の困り事
4月
もう限界。助けて、のSOSメールを送信
内容を読んだ君は、ことの次第が深刻だと察知したように
わかった、大丈夫。なるべく早く連絡する
に、俺に一番繋がる番号を補足したメール
更なる補足は
①ずいぶん変わったんだな
②今のあなたなら出来ることはしたい
③0相変わらず.あなたの大丈夫は、全然大丈夫じゃないんだな

30年近く、君と私は性別を超えた関わりだ
性別を超えたというより
そもそも男女の仲ではないのだ
Heartsting
深愛は大袈裟だし、ちょっと違う

沈黙を破ってから、また口喧嘩をする君と私
成長か老化か分からないが
最近、口喧嘩の最中、どちらかが切り出す

お互い歳だね。
疲れるから言い合うのやめようよ。笑

君と私のHeartstrings




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