今年は「粋（いき）｣な人間になることを目標にしている。





今まで無粋なタイプの人間だったので、いっちょうこれからは粋な男になってやろうかと思いたったのだ。




では粋な人間とは何なのか？



……




…実はよくわかっていない。





そうなのだ。


粋とは何かと考えることが、そもそも粋ではないのである。




俺は神経質な方の人間ではない。




ただ何か琴線に触れることがあれば、それが頭の中でずっーと気になって考えてしまい他のことに集中できなくなる性質を持っている。



例えば、あの歌ってなんだっけ？って気になると、思い出すまで三日三晩くらい考えるタイプなのだ。






そんなしょうもないことなんて、さっと忘れればいいのに、ついつい気になって他人に無粋なことを聞いてしまった失敗は一度や二度ではない。



粋な人間とはさっぱりした人間。




小さい事は気にせず、さっぱり忘れることができる人間こそが粋な男と俺は解釈している。





今年はそんな粋な人間になると俺は誓ったのである。






一昨日、ある田舎の地方ロケがありスタッフ6人で昼飯を食いに行った。





近くには老夫婦が営んでいるという古い定食屋しかないらしく雨も降ってるのでどこでもいいや！とのこと
でその店に入ることにした。




年季の入った割烹着を着た80代くらいの腰の曲がった女性が「いらっしゃいませ｣と出迎えてくれた。



我々は壁に貼ってある赤茶けた手書きのメニューを見る。





うどん定食ってのがあった。


うどん定食を頼むと、うどんにカレーライスがセットで付いてくるらしい。なるほど。




カレー定食ってのもある。



カレー定食は、カレーライスにうどんがセットで付いてくるみたい。




……





……




（え？どういうことなん？）





だめだ、だめだ、無粋なことを考えるのは止めよう。






値段を見る。


うどん定食の方が30円安い。






（なんでなん？）



だめだ無粋なことを考えてはだめだ。




メニューを再び見る。



カレーライスとうどんがあるのに




メニューにカレーうどんが無い。

（何で？）


無粋はダメ！！




スタッフの一人が婆さんにおすすめを聞いたら「親子丼ですね｣と即答で答えた。




だったら壁に貼ってある



本日のおすすめ「あじフライ定食｣って何？





無粋、無粋！





「えーあなたは何でした？そちらの片は何でした？｣



店のお婆さんはお年のせいか頭の回転が相当衰えてるようで注文が覚えられずパニくっている。







そればっかりは、お年寄りなんで無理はない。




味はザ・家庭料理。美味しかった。




「お会計お願いします。｣

「はーい、みなさん注文したの言ってくれますかいな｣



6人全員食べたものを言った。


「4080円ね（即答）｣





頭の回転はやっ！！

（なんで？なんで？なんで？…）





一昨日の事なのに一件の定食屋で出会った数点の疑問が今もずっーーと頭から離れない。





粋（いき）な男への道のりは遠いが、


加齢のせいかイキやすい男にはなれていると思う。