今月に入り会社でバタバタと禁煙を始めた人が増え始めていて妙にピリピリした空気が流れている。




今月からタバコが増税されたそうでそれに乗じて禁煙を始めた人がほとんどである。






俺は一足先に禁煙をしているのだが、俺が止めようと思ったきっかけは増税とか健康とかではない。







ある上司のおかげで俺は禁煙を決意したのである。








その上司は俺の交友関係の中でもかなりぶっ飛んだ人種の一人で、彼のエピソードをあげれば枚挙に暇がないのだが今回は何故俺に禁煙を決意させたのかというエピソードをしたいと思う。






この上司がかなりのヘビースモーカーなのである。






何か行動をするたびに常にタバコを吸っていて、トイレで用を足す時にまでタバコを吸っていた。








「タバコ吸わないとウンコが出えへんねん」





習慣というのは怖いもので



長年、タバコを吸いながらウンコをしていると身体がそう覚えるのか便意をもよおしてもダイナミックに出ないんだという。






ある深夜のことだった。





オフイスには締め切りに追われた俺と上司の二人が残業をしていた。







上司はおもむろに立ちあがるとオフイスを出た。




廊下の奥でトイレのドアが閉まる音が聞こえた。




その10秒後





すごい形相でドアを開きオフィスに戻ってきた上司。





入口のドアから転がるように俺の近くに猛烈な勢いで走って来る。





血走った目でケツをぶりんと付き出し口はキスをするように尖らせ「チュパチュパ」と音を鳴らして俺の前に立ちはだかる。








上司は奥さんも子どももいるが、山本小鉄みたいな彼氏もいるゴリゴリの「バイセクシャル」である。






そんな男にケツを付き出しながら血走った目にキス顔で迫られている俺。







これはもう、いよいよ俺の身に大変なことが起こるんじゃないかと非常にナーバスな気持ちになってしまった。






すると上司も埒があかないと思ったのか


消えるようなか細い声で「タ、タバコ・・・」とつぶやいた。








あ！タバコが欲しかったのか。






ウンコが出そうな瞬間、タバコが無いことに気付き
慌てて俺の前に現れたのである。






口を開けばウンコが出る危機的状況の中、口を尖らせチュパチュパしていたのは「タバコをくれ！」というジェスチャーだったのである。






俺は慌てて胸ポケットに入っているマルボロをそのまま一箱上司に手渡すと、礼も言わずケツを付き出したまますごい勢いでオフイスを再び出て行った―





が、その5秒後再び転がるようにオフィスに戻ってきて






ケツを付き出しながら髪を振り乱して「指パッチン」を始めたのである。






すごい勢いで「指パッチン」をしているのを茫然と見つめている俺。






「・・・え？何？今度は何？」




上司は虫のような声で「ラ、ライター」






あ！ライター！！





しかし当時の俺は人のライターも俺のポケットに入れてしまう代わりに、自分のライターもどこかに置いてしまうくらいライター無頓着男である。





上司のため必死にライターを探した。



机の上、机の下、引き出しの中、旅先の店、新聞の隅、こんなとこにあるはずもないのに・・・




ライターをやっと見つけた時、俺の前からすでに上司はいなくなっていた。






その夜、上司はオフィスに帰って来なかった。


再会したのはあの夜から二日後だった。





上司にはあの後どうなったのかは聞いてはいない。





ただただタバコの怖さが身に沁み禁煙を決意した夜であった。