大阪市内在住の方なら一度くらい見かけたことがあるかもしれない。





派手なおじいさんが颯爽と自転車で走り抜ける姿を。





派手なおじいさんとは、とにかく派手に着飾ったおじいさんである。


きっと素のおじいさんはきっとそのへんにいるような小さななﾖﾎﾞﾖﾎﾞのおじいさんなのだが、





麦わら帽子には隙間が無いほどびっしり大きな花が張り付けられて、派手なスカジャンが基本で（あるいは女性ものの派手なコートや祭りの法被など）、


首にはハワイとかで付けらえている派手な花輪を何個もつけていて、


ズボンもムード歌謡の昭和の歌手のようなスパンコールのキラキラしたやつをはいている。ハートの形のサングラスをしている。




自転車にもクリスマスツリーに付けられているような電飾が施され、よるはｷﾗｷﾗ光らせながら走っている。




その派手さは年々エスカレートしていき、後半期には真っ赤な口紅に紫のアイシャドーに白い化粧。



デーモン小暮よりもはるかにデーモンな仕上がりになっていた。






まぁ、一言でいうと近寄りたくない変人である。






この「派手じいさん」自転車をいつも乗っているのだが、通り過ぎる人は２度見どころか、３度も４度も見る、車で信号待ちをしている人も指をさして驚愕の表情で見つめる。散歩中の幼稚園児たちも全員口をぽっかり空けて唖然としている。




派手爺さんは奇異な視線を逆にドヤ顔で気持ちよさそうに自転車に乗っている。






俺はこの派手じいさんに時々会えるのを楽しみにしていた。






見かけたら何かいいことが起こるかもしれないと小学生の頃のおまじないのように楽しみにしていた。




俺はこの派手お爺さんに直接コンタクトを取ったことがない。





ただ風の噂での情報は調べた。




奥さんは数年前に他界している…



昔は仕事一筋の真面目な職人さんだった…




なぜ、ああなったのか？



人は老人だから「ボケ」てるんだろ。というー。





俺は違うと思う。




自分を抑えながらも職人として一家の長として生きるために必死に頑張ってきた人が、人生の最後に自分を解放した姿の結果があれなのだ。





でもきっとずっと我慢してきて抑圧された気持ちを一気に放出させた最後の自己表現なのだ。



これまでの人生が楽しかったのか？苦しかったのか？それは知らない。


でも今はニコニコしている。

それでいいじゃないか。




最後に笑えてたらいいんだよ。







俺は毎日、派手じいさんとどこかで会えるのを楽しみにしていた。





しかしめっきり見かけなくなった。



１年たち、２年たち、３年たち…





風の噂で亡くなったと聞いた。



たしかにそういう年齢であった。





最後は派手な姿のまま死ねたのかな？地味だったのかな？素晴らしい人生だと思えて死ねたのかな？





俺は人間が好きだ。


自分と違う人生の人の話を聞くのも好きだし


とりわけ自分の倍以上も人生を重ねたお年寄りの話を聞くのも好きだ。




コンタクトとっとけばよかったな・・・




まったく血がつながっていない老人に想いを馳せていた自分がいた。







そして今朝のことである。






今後筋で車を走らせていると、青い派手なスカジャンに花が高くびっしり張り付けられシルクハットをかぶった小さな老人が自転車をこいでいた。



俺は「え？」と思わず動揺した。




後ろ姿だから顔はわからない。




派手なじいさん生きてたん？





俺は車のスピードを緩めた、後ろからクラクションを鳴らされ慌ててアクセルを踏む顔を確認しないまま通り過ぎてしまった。



なんとなく高鳴る心臓（なんでやねんと我ながら思う）


派手じいさん生きてたんだね・・・






そういうことを頭で考えながら打ち合わせのために今度は電車に乗りこむ。






俺はシンクロニシティ（意味のある偶然の一致）や引き寄せの法則などを信じているタイプなのだが、今回ばかりは驚いた。






駅のホームに朝に今里筋で見かけた、派手な後ろ姿のお爺さんが立っていたのである。なんでやねんと思うがまったく同じ後ろ姿の人だった。





俺は思わず走り駆け寄った。


そして周り込んで顔を確認した。




俺の知っている派手なお爺さんとは別人だ。




しかし高く大きく張り付けられたカラフルな帽子の花に青い派手なスカジャン。



派手なジャンルの流派は同じだ。





２代目か？２代目継承者か？




２代目派手な爺さんはのぞき込む俺の顔を見て、
「？」って顔をしている。



（そもそも派手な姿をしてるくせに「？」って顔するなよｗ笑うわｗｗ）




俺は頭を指差し「帽子かっこいいですね」って言うと、２代目は「ｳﾌﾌﾌ」ってしわくちゃな顔で嬉しそうに笑った。



いい笑顔だが、派手さでは初代にとうてい及んでいない。



今度会えたら「お酒でもいっぱいどうですか？」と誘ってみようかな。