俺は今、「神の穴」を使うべきか否かで、小一時間くらい葛藤しているわけである。


俺の３つ上の先輩で、茂さん(仮名・35歳アダルトショップ経営）という人がいる。

優しいだけが取り柄の何となく冴えない男ではあるのだが、俺の仲間うちでは最近評判になっている。


「悩みがあれば茂さんとこに行け」


ちなみに茂さんはカリスマ性とかまったく無縁な普通のオッサンである。

何のことかさっぱりわからなかったから聞いてみると。


結婚目前に彼女にフラレテ２週間くらい毎晩泣いていた男が茂さんのところに行った日から前向きになったとか。


３０歳過ぎて「年齢＝彼女いない歴」と言っては卑屈に笑う男が茂さんとこに相談に行って妙に自信たっぷりな男に変貌したとか。


リストラされて嫁と子どもに逃げられて死ぬことばっか考えてた男が茂さんとこに行ってからは、生きる希望に溢れてるとか。


とにかく本当か嘘かわからない噂話を聞いた。話半分だとしてもスゴイ話である。

茂さんは、壊れそうな男の駆け込み寺になっているといわけだ。


俺：「茂さんって宗教か何かを始めちゃったん？」


友：「違う、違う（笑）そんなんじゃなくて…茂さん、悩み相談に来る男みんなに







“TENGA”をプレゼントするんや（笑）」



みなさんはTENGAってのをご存じだろうか。

巷で話題沸騰のオナホールのことである。


ケンドーコバヤシをもって「神の穴」と称するほどの究極のオナホールで、オナニーとは無縁のはずの、あの福山雅治でさえ愛用しているらしい。


俺も噂では聞いていた。

とにかく仲間がTENGAのことを話してたし。

居酒屋で酔ったサラリーマン達が大声で愛用のTENGAについてプレゼンしてたし。


心斎橋で険しい表情で腕組しながら話している中国人集団もところどころ中国語に交じって「TENGA」って言ってたし。（売場を探してたｗ？）


とにかく凄いオナホールが存在するってのは知ってたんやけど、まさか男の人生を変えるほどの「神の穴」なのか？


気になって仕方がないので、実際に茂さんとこに礼拝に行った男に電話してみた。


いつもは「俺みたいな奴・・」ってのが口癖の卑屈な男だったが、妙に自信たっぷりないい声で俺に一言。



「もう、女はいらない」


だ、そうである。


使用した奴の話を聞くと、概ねみんなが口をそろえて言うのは「気持ちがいい」。

中には女のソレをはるかに凌駕する気持ちよさで「もう女で悩んでたのがバカバカしくなるほど」だという。


で、そんなわけで。


今俺のカバンの中に茂さんからもらった「TENGA」が入っている。


使うべきか否かで一時間くらい悩んでいる。


俺はやっぱり女が好き。

挿入してみて女性のアレの気持ち良さは個性もあって千差万別。


実は射精まで至るプロセス全てがセックスであり、女性の香り、体温、呼吸、が好きなのである。


もしTENGAを使用して俺のセックスの価値観をひっくり返すほど気持ちの良いモノだとして

「女はもういらないわ」ってなったら、それは俺のアイデンティティの崩壊を意味する。


俺はしばらく神の穴はおあずけにする。


ただ、この先、俺の日記の内容が


瀬戸内寂聴さんのような清らかな内容になったら。


「あの野郎、TENGAを使ったな」と思ってください。