先日、正月に「あけおめこ」と叫んだ

甥っ子のU志（小６）がウチに遊びにきた。


U志がメシを食いながら興奮気味に俺に話す。


「商店街歩いてたら『どけや、コラっ！』って後ろから怒鳴られた。

車椅子に乗ってる人にやで？

・・・もう考えられへんわ」


「なんで？」


「だってさ、普通は障害者の人ってみんな優しい心持ってるって聞いたから」



…そんな偏見を誰に聞いたんや( ´･ω･｀)


ケンちゃん（仮名）は脳性麻痺患者で普段は電動車椅子で行動している。


ケンちゃんとは、とあるアウトドアブランドが主催したイベントで初めて出会い


かれこれ12年の付き合い。　


同じ年齢ってこともあって意気投合し、気がつけば飲み仲間になっていた。



こいつがまた


スケベでワガママで


とんでもないゲス野郎なのである。



以前は月に1回くらい飲みに行こうって連絡が入る。


「いつも同じ店は嫌だ」


とワガママ言うもんだから


大阪で電動車いすが入るような居酒屋を探すのに一苦労。


ビールにはストローをさして口に運んでやり

酒の肴も口に入れてやらなければならない。


なのに、スルメの天ぷらにマヨネーズ付けるのが少ないと文句いったり


枝豆を食わそうとしたら、お前のチンコ触った手でじかに食いたくないとか


めんどくさいことこのうえない奴である。


さらに困るのが


ただでさえ言語障害があるのに酔って興奮しだすと何言ってるのかわからず


通称「ケンちゃん語」を話し出す。


聞き取れるようになるまで実に10年の時間を要した。



また、ケンちゃんはとんでもないドスケベ野郎で


いつも以上に車いすの背もたれに仰け反ってるなって思って

ケンちゃんの視線の先を追うと、座ってる女性のパンチラをガン見してたり


ある時は介護してくれる女性ヘルパーの乳の谷間を凝視してる。



20代の頃、本人たっての希望で一度合コンにも連れて行ったことがある。


念のために事前に女性陣に事情を説明。



「同情とか憐れみは一切いらないから特別扱いだけはしないで」

って俺が念を押すと


さすが現役看護学校生の女性陣。


「皆まで言うな」とばかりに、快く受け入れてくれた。


言葉どうり女性陣も気を使わずぶっちゃけ下ネタトーク。



「私の先輩は、脳性麻痺の患者さんが可愛そうって手コキで性処理してあげたこともあるの（笑）」


ケンちゃん、すでに酔って上機嫌。


例の「ケンちゃん語」で女性にまくしたてる。


言葉が聞き取れず「？？」の女性は俺に「何て言ってるの？」って聞いてくるが


まさか




「お前達もナースの卵なら、今から俺のチンコで手コキの実習しろ」

とゲスな発言してるとは口が裂けても言えなかった。


一度、俺とケンちゃんは大喧嘩したことがあった。


「一生、誰かに助けてもらわんと生きれない苦悩が・・・

健常者のお前にわかるかーー！！」


俺はどんな境遇や環境であれ、自分を磨かず卑屈になる人とは酒が飲めない。


ケンちゃんは、たまにすっごい卑屈になって攻撃的になる。


それがすっごく嫌いだった。


お互い酔ってたせいもある。


「んじゃ、誰かに助けてもらうばかりじゃなくて

お前も誰かの役に立つために何かできるか考えてみろや」


「俺が何かできるわけないやろ」とケンちゃん。


「障害があるから何もできんと言わせんぞ～！」って俺


マジギレしたケンちゃんが、本気で電動車椅子をぶつけてきたから

仕返しに俺は首を絞めてやった。



なぜか喧嘩を止めに来たヨシがケンちゃんの電動車椅子に轢かれて

足の小指の骨を折ったのは気の毒だった。



その週に、俺が学生時代からボランティアで通ってた


児童養護施設の餅つき大会に嫌がるケンちゃんを説得して引っ張っていった。


憮然とした表情のケンちゃんが子ども達に囲まれて大人気。


厳密に言うと、ケンちゃんではなく電動車椅子が大人気だったのだが…


次第にケンちゃんは顔をクシャクシャにして喜んだ。



「俺にはずっと家族がいたもんな」


その日以来、ボランティアを受ける側のケンちゃんが


ボランティアで孤児の子どもたちを助ける活動をした。


なかなか素敵な世界である。



ただ、どうしてもかける言葉がみつからんこともあった。



それは「恋愛問題」


恋多き男ケンちゃんは定期的に健常者に恋をする。


特に神戸の某大学のボランティアサークルには新入生が入れ替わる度に毎年、必ず恋をした。


ケンちゃんは男らしくアタックするのだけどいつも見事に玉砕。



その度に落ち込んで

「あんなに優しい子だったのに…」とケンちゃん。


「優しく介護してくれるのと、彼氏になってくれるのは別問題やな・・・」


こういう日はビールでは無く芋焼酎のロックにストローを突っ込んでやる。


程好く酔いが回ると

「彼女が欲しい…」

ってさめざめ泣くのである。


「大丈夫！男を磨いて努力すればいつか彼女ができるって」

とは軽々しくは言えない。


黙って一緒に飲むだけである。




さらに酔いが回ると

ついに「ケンちゃん語」になって


『セックスしたい～！』


と暴れ出すのが恒例となる。



ケンちゃんは両手に麻痺があるので満足にオナニーもできず


もっぱら夢精を主流にしている童貞くん。



あまりにもエッチがしたいとのたうち回るケンちゃんに見かねたヨシが



「フェラしたろうか？」


とケンちゃんの顔を覗き込む。


２人は５秒くらい真顔で見つめあった後


ヨシは再びケンちゃんの電動車椅子の餌食になった。




精神構造は俺達と一緒。

セックスしたい、

おっぱい揉みたいと

俺ものたうち回るもの。


障害者も性欲はあるしヤル気マンマンなのだ。


雑誌で読んだが

障害者の息子のために母親が性処理をするって話を聞いたことがある。


ケンちゃんにそんなマザーファッカーなことはさせられないってことで


調べてみると、大阪にも障害者専門のデリヘルがあった。


風俗嬢は基本的な介護法を知っており、重い障害の時は男性スタッフもついて来る。


さっそくそこに電話して、俺とヨシとで金を出し合って

ケンちゃんにささやかな性サービスをプレゼントした。


「どうだった？」

ってその夜に感想を聞いてみたら、


酒も飲んでいないのに


「ケンちゃん語」になっていたから

相当舞い上がってる様子。


それからケンちゃんは月に２回、そこのデリヘルを利用することになった。



それから俺も職場を辞めてフリーになると仕事が忙しくなり


数年間ケンちゃんとは疎遠になっていった。



ケンちゃんは心臓を悪くしてしまい、


電動椅子ではなく病院のベッドの上で点滴の管だらけになっていた。


俺がお見舞いした頃には、以前よりもっと身体が動かないし言葉も出なくなってる。


ベッドの横でお見舞いの品であるエロ本を見せながら


ウハウハ喜んでる俺とケンちゃんの姿が奇妙だったんだろうか？


おっぱいの大きな若いナースが笑いを必死でこらえながら空の点滴を回収していった。


ケンちゃんの耳元で

「身体拭いてもらってる時に事故と見せかけて

あのオッパイにしゃぶりついてやれ！」

って言うと

ケンちゃんは奇声をあげて嬉しそうに身をよじった。


その数ヵ月後にこのスケベでゲスな男は息を引き取った。



「Ｕ志、障害者も健常者も一緒。

嫌なやつもおればいい奴もおる。特別扱いすんな。
ムカツク奴はムカツクー！って言え」


Ｕ志はわかったのか、わかっていないのか一言。


「やっぱ男はみんなスケベやねんな」だと。



・・・・その通り。

健常者だろうが、障害者だろうが、


男はみんなウンコとチンチンの話が大好きだってことを知ってもらえただけで、


俺もケンちゃんも嬉しいのだ。