以前、勤めていた会社に

『二郎ちゃん』

と呼ばれる女性社員がいた。


女性なのに顔が『坂上二郎』そっくりなので付けられたニックネームである。


年齢は不詳。


会長か社長かの偉い人との縁故で入社したそうだが

昔に一度、寿退社したものの

離婚を契機に出戻りをしてきた経理のお局様。

重役クラスにも常にタメ口で、とにかく顔と態度がむっちゃでかい。


ちなみに中学生の一人娘も坂上二郎にそっくりという

深いカルマを背負った人である。


実は俺は「二郎ちゃん」との絡みはほとんどない。


初めて見たときに「うわ！坂上二郎やん」ってのけぞるほど驚いたのと


タバコを吸ってるのを見て

「何で鼻からしか煙を出さないんやろ？」って観察していた程度。


ただし、入社当時、珍しいのを見たこともあった。


俺が配属していた制作部は納期が近付くと、忙しくなり

十分に睡眠が取れず寝袋持参で会社に泊り込む日も多かった。


当時は3日間くらい徹夜が続くと、意識が朦朧としてしまい

夢と現実の間でたまに変な幻覚や幻聴が聞こえる時もあった。


この日も徹夜が続き、早朝に缶コーヒーを飲みながら屋上でボーっとしてたら


朝日に反射された黒い人影が見えた。


その人影をよく見てると変な動きをしている。


（ん？幻覚か…？）



人影は両足を大きく開いたガニ股で左右に地団太を踏みながら

ゴリラのように胸を叩く動作を繰り返している。


（なんだ？あの謎の生物は？）


とよくよく目を凝らして見てみると。


幻覚の正体は二郎ちゃんであった。


「オイッチ！、オイッチ！」

という奇妙な掛け声と変な動きを延々と繰り返す二郎ちゃんを唖然としながら見てたら


「毎朝日課の健康体操らしいで」

と先輩が教えてくれたので、

「二郎ちゃんダンス」と命名してやった。


そんな二郎ちゃんは『魔性の女』であった。



当時のウチの会社は、自由な社風をモットーにしていたのだが

あまりにも自由すぎて

会社が「性のカオス状態」になってしまっていた。


忘年会、新年会などの節目での宴会は全部署合同で行っていたのだが


酔いも回った終盤は気がつくと妙に艶っぽい雰囲気になって男女のペアができており

時には目に余るような光景を何度も目撃した。



特に営業部は、ドロドロの社内恋愛や不倫が蔓延し

女性の嫉妬や人間関係のトラブルで内部は酷い状態だった。


当時の本部長は「売り上げ目標」よりも不倫が原因での社内トラブルを収束させることに追われていた。


その禁断の最前線で、部署を飛び越え縦横無尽に大暴れしていたのが


何をかくそう『二郎ちゃん』であった。


過去に紹介した「次長」をはじめ、社内の様々な男と浮き世を流しているという噂は後を絶えなかったが、


『偉い人の身内』ということで部長も迂闊には処分を下せなかったのである。


そんなある日のこと。


同僚と酒を飲んでいたら

「りょうま、俺な・・・二郎ちゃんとヤッてもうた」

と衝撃カミングアウト。


男なら性欲に負けて不本意な相手とヤってしまうことは多々ある。


だけど、相手は「二郎ちゃん」である。


いや『坂上二郎』である。


“阪神タイガースＶＳ商店街の草野球チーム”ぐらい


「性欲」なんぞに負けることなんて、絶対にあってはならない相手のはずである。


一晩の過ちに、よほど後悔して落ち込んでると思いきや　


逆に目をランランと輝かせ、二郎ちゃんとの生々しいセックス描写を語った。




耳が腐るとはこの事である。



まぁ、身体がすごいらしい。


真っ白なモチ肌で形のいい豊満な乳には、小さなピンクの乳首。

中年女性とは思えないキュっと締まったウエストのくびれ。


二郎ちゃんは、自分で「常盤貴子と同じ３サイズ」と豪語していたらしいが


『坂上二郎』の顔に、常盤貴子の裸体をリアルに想像してしまい



その場で軽く４回くらいえずいた。



「あの年齢で何をすれば、あんな身体になれるんやろ？」

と同僚はひたすら感心していたが


すぐさま、俺の頭に浮かんだのは、かつて目撃した


「二郎ちゃんダンス」


すぐに頭を振って脳内から、あのダンスを消した。



二郎ちゃんと一戦交えた男が口をそろえて言うのは


「二郎ちゃんのセックスは日本人離れしている」そうで


セックスは、かなりのラテン系だそうである。

常に男の上に乗り、髪を振りまわして大暴れ。


もう、話聞きながら、


ずっと、空ゲロを吐きっぱなしである。


「巫女抱き」の時、まったく勃たなかった同僚が

二郎ちゃんとは、一晩で３発やったらしいから

その身体、テクニックが本物であることは間違いない。


同僚は真顔で

「また二郎ちゃんとヤれるならヤりたい」と語った。


「闇セックス」では無いが、抱いてみるまで相手の良さはわからない。


だが、まず「抱きたい」と思わないとセックスを始めることはできないのである。


なぜ二郎ちゃんは、それほどまでに男にモテるのか。


考えられるのはただ１つ。



「二郎ちゃんダンス」



この奇妙なダンスに秘密が隠されているとしか思えないのである。


毎朝、二郎ちゃんが屋上から奏でるゴリラのドラミング（胸を叩く）の求愛行為によって


無意識に社内の男たちの動物本能を呼び起こしていたのかもしれない。


もし、俺がまだその会社にいたら


もしかしたら二郎ちゃんと・・・？


先ほどから、軽くえずきっぱなしである。