電車の中で何やら揉めている酔っ払いカップル。


彼女の浮気を問い詰める修羅場であった。


んなもの家に帰ってやればいいのにと思ったが

なかなか面白いやりとりに耳を傾けてしまった。


「あいつと俺とどっちが好きなんや！」って彼氏の問い詰めに


女は泣きながら

「ケースバイケース」

って答えた。


「ああ！！」

って怒る男に、すかさず


「う～ん7：6でアンタかな・・・」

って女のフォロー。


足して10という比率を超える究極の愛を持つ彼女と、

そうか「7は俺か…」って満更じゃないニヤケ顔を見せた彼氏。


末長く付き合って欲しいと思った。



さて、男女の間で

『私（俺）と〇〇どっちが大事なの？』

と問い詰める局面ってのは意外とあるのかもしれない。


Ｍ子から久しぶりに連絡があった。


Ｍ子は俺が大阪で専門学校の講師を少しの期間やっていた時代の生徒である。


俺のことが「好きだ～！」って近づいてくるくせに

「彼氏がいるから」「既婚者だから」という理由で

指一本触れさせてくれない酷い女である。


そんなＭ子が折り入って俺に相談があるという。


俺は女性からの相談、とりわけ恋愛相談はよほどのことが無いかぎり


なんだかんだ理由を付けて受けないようにしている。


経験上、神妙な感じで折り入って相談があるって言う女に話を聞いてみても


女ってのはある程度、自分の中で一定の答えができていて


その自分の出した答えを同調してもらいたいために「相談」するのである。


そんなガールズトークがアホらしくて

恋愛相談は俺がよほど好意を寄せている女か、本当に悩んで困っていると見受けた人以外は


極力避けるようにはしていたのである。



Ｍ子の悩みも恋愛相談であった。


Ｍ子の彼氏は、同じ専門学校に通っていたＦ君。


当初はＭ子よりもＦ君の方が俺に懐いてくるので、


俺の仕事を手伝わせたり、飲みに連れていったりしてカワイがってはいた。


Ｆ君は、なかなかのイケメンで爽やかな奴ではあるが


一つ難点があって


こいつが超のつくほどの「ガンダム“オタク”」なのである。


ジャンルを問わず人生を賭けて一つのことを極めようとする

「オタク」と呼ばれる人間にはリスペクトをしているんだが


ただ『ガンダム』の話となると、どんな相手にもまったく周りの空気を読まず


専門用語を交えながら2時間でも3時間でも一人で延々と話すので困っていた。


「ルナジリアン」がどうしたの
「さびけの子ども」がどうしたの
「ミノなんちゃら粒子」だの


まぁ、何度聞いてもわからん。


俺は『ドラえもん』『アラレちゃん』以外のロボットは、まったくと言っていいほど知らないのである。


なのでガンダムオタクと遭遇したら、


「親父にもぶたれたことがないのに」

って唯一『ガンダム』で知ってるキーワードで

ヘラヘラご機嫌をうかがうしかないのである。


そんなＭ子とＦ君の恋愛の悩みもやはり『ガンダム』であった。


『ガンダムにお金を使いすぎる』という。


たしかに結婚を意識していく年齢ではあるが

そんなもの、ギャンブルや女遊びで散財するわけでは無いねんから
趣味に金使うことくらいええやん。


って言ったのだが、ちょっとＦ君は異常だった。


給料のほとんどをガンダム関連で消費し、借金まみれ。


新車も買えるような金額を借金して人間よりも大きな『ザク』を購入し

そのザクを保管するスペースを月々8万円で借りている。


お金も無いのでデートの時は、電車に乗って、そこの倉庫に行き朝から晩まで『ザク』を愛でる。

さらに借金して、もっと大きな『ザク』を買おうと計画までしてるらしい。

これまでずっと我慢していたＭ子だったが


前戯もしないくせに、『ザク』の身体を触ってはデレデレと鼻の下を伸ばし恍惚の表情を浮かべる

Ｆ君に、遂にＭ子がキレて大喧嘩になったという。


「ザクと私とどっちが大事なのか彼に聞いて欲しい」

ってのがＭ子からのお願いだった。


その答えいかんによっては別れるとの強い決意であった。


Ｆ君を呼び出し久しぶりに飲みに行った。


相変わらずの「ガンダムの話」。


Ｆ君「ぶっちゃけ、今の日本の技術だとガンダムを作れるんっすよ」


俺：「だったら、何で作らない？」


Ｆ君「…作れるんだけど、ホラ、操縦する人がいないから…特殊な能力がいるし」


俺：「まさか…お前か？お前が操縦者になるつもりか…？」


Ｆ君「わははは！今の俺ではまだ無理ですわ～」


俺：「おい、“今の”ってどういうことやねん？」


こんな、どうでもいい会話が続きいよいよ本題。



「お前な、『ザク』とＭ子、どっちが大事なんや？」


Ｆ君は箸を置くと俺の目を見つめ静かに語り出した・・・・


・・・・・・・・


「そうか…じゃあ、今言ったことを、そのままＭ子に伝えてもいいんやな？」


Ｆ君は小さくうなづいた。



次の日、さっそくＭ子に電話。


「『ザク』とＭ子、どっちが大事なんや？って聞いたら…







MS-06の「ザク」とでは微妙やけど、


MS-05、MS-06Sの「ザク」なら断然お前の方が“好き”らしいよ』


「…それって喜んでいいのかしら？」とＭ子。


「よくわからんが、喜んでいいんちゃう？」と俺。


2人は今でも付き合っている。