『ひと夏の恋』


そんな言葉があるように夏になると女性は開放的になるようである。


昔から夏のリゾートバイトで女の子とヤリまくったという仲間からの武勇伝は腐るほど聞いてきたし。



大阪の淀川やＰＬなど大規模な花火大会があれば市内のラブホテルでも満員御礼で


盛大に男のチンコから花火が打ち上がっている。



ただ夏と言えば、なんと言っても海水浴。



中学生の時に和歌山の海水浴場で遊んでいたら


女子大学生グループが思い思いにサンオイル塗ったり、お菓子食べたり、くちゃべったりしていた。


女子大生のおっぱいをボ―っと見てたら、


近くにまったく別の男子グループがやってきた。



んで、あっという間に男子グループはその女子大生グループをナンパ。


気が付くとビーチバレーが始まった。


あれやこれやとしてるうちに、グループの中から、カップル的なものができ、別行動が始まりだした。


なんやかんやで、できあがったカップルが海に入ってイルカの浮き輪の上で


おっぱい触りながらディープキスをしていた。


たぶん、彼・彼女たちが出会って１時間も経過していなかったと思う。



当時の彼女と夜の公園のベンチでキスをするのに


『１年』の時間を要した俺は


『１時間』でおっぱい＆キスに愕然としながら眺めていた。



どうやら

「海水浴場では女とヤレる」

と中学生にして強烈に脳内にインプットさせたまま高校では男子校に進学した。



高校生の時は異性と会話するのはオカンと食堂のおばちゃんだけという日も決して少なくなかった。


日々、女がいないことでモンモンとしていたけど、それほどの焦りもなくイザとなったら

「海水浴に行けばいい」と思ってた。



中学生の頃に見たあの日の光景を脳裏に焼き付けたまま、なんとなく過ごしていたのである。



ただ、二十歳をすぎても女に免疫の無い当時の俺がすぐに彼女を作れるはずもなく、不遇のの日々はしばらく続いた。



ただ、もういよいよ限界だ・・・って時に


『そうだ！海水浴に行こう』

ってことになったのである。



高校の時の仲良し同級生数人を集めて、須磨海水浴場に車を走らせた。



なんと言っても高校の３年間は脳内だけで女を作っていた連中である。



道中の車の中は、ナンパのシュミレーション（成功前提）とその後の女をどう料理（エッチ前提）するのか―。


３年間、脳内で練りに練られたプラン（エロ）一色の会話であった。



須磨海水浴場に到着。


いるわいるわ、ガールズ達が。



もう、どのおっぱいを持って帰ろうか。と期待と股間を膨らませた。



だけど、俺たちはとんでもない弱点を知ることとなったのである。



こと女のことに関しては“妄想”の中でだけ、
エロ界のビンラディンのような過激派なのに、いざ実物の女が目の前に現れた実践の場では



授業参観日の小学生のようにモジモジしてまう。

本当に気持ち悪い青年達でした。



やはり男女を奪い合うのは弱肉強食の世界。

俺たちがモジモジしている間に。


違うイケメン男グループ達に、あっと言う間にめぼしい女の子たちは持っていかれたのである。



俺たちは完全に心が折れてしまって、ナンパは諦めて男同士で波打ち際でプロレスごっこに興じるようになっていた。



久しぶりのプロレスごっこで、みんな顔は笑顔なんだけど





すんごい笑い声は小さかったの。



俺は喉が渇いたのでジュースを買いに行こうと売店に向かって歩いていたら



砂浜の上を一人の女性がこちらに向かって歩いてきた。



真っ黒な女である。



海水浴場だから日焼けで真っ黒な女ではない。



長い髪に真っ黒の長いスカートに真っ黒の服と靴という―


炎天下の海水浴場に相応しくない、違和感ばりばりのたたずまいである。



「妖怪人間ベラ」のような感じの服装をイメージしてくれればいい。


しかも小脇には何故かお風呂で子どもが座るようなキャラクターの書いた小さな椅子を抱えていた。



その異彩っぷりはすれ違う海水浴客も２度見して振り返るほどであった。



まぁ、一言でいうと『変な人』である。



自慢では無いがギャンブルでのお金やビンゴゲームの豪華景品など


幸運なモノは一切引き寄せることができない俺ではあるが



こと「変な人」を引き寄せる能力だけはハンパなく持っている。



大勢の海水浴客がいる中で、もう完全に黒い彼女の視線は俺にロックオンであった。



案の定、黒い女は俺の前に、立ち止まると小さな子供用の椅子をボンと置き


「ここに座って下さい・・・」


出た・・・ (￣ω￣；)


また俺は今日も変な人に絡まれるのか・・・



本当は無視して逃げればいいのに、好奇心が勝つのも俺の悲しいところなのである。



「あの？何するんですか？」



「まずは座ってください」



とりあえず、その小さい椅子に座ってみる。




黒い女性は俺の前に片膝をつくと



「あなたの不幸を吸い取り、幸せのエネルギーを与えます。」





うわー！やっぱり逃げればよかった (￣ω￣；)


ただ逃げようと思ったけど、黒い女の「手かざし」が既に始まっていた。



今逃げると、ちょっとかわいそう。


俺のオデコに向けられた「手かざし」



とりあえず目を瞑って素直に祈られてみた。


クスクスと通り過ぎる人の笑い声が聞こえる。



そりゃそうだ。



海水浴場の砂浜で子ども用のお風呂椅子に座る成人男性に手かざしをする黒い女。


シュールな光景すぎて俺でも笑うわｗ。



ひとしきり祈られると黒い女に深々と頭を下げられて、


俺も頭を下げて“儀式”は終了。



俺は人々の好奇な視線を浴びながら当初の目的であるジュースを買いに行った。



自動販売機の前で、なんだか少し気になったので、黒い女を目で追ってみた。



黒い女は俺にしたように他の海水浴客に話しかけるんだが


手で×を作られたり、犬のように「シッシ」とされてたり、指さされて爆笑されてたり。



黒い女は肩を落としてトボトボと後ろ姿を見てると気の毒に思えてきた。




俺はジュースを２本買って黒い女を追いかけた。



何でそこまで黒い女が気になったか白状すると



実は目を瞑っている間、ずっと薄目を開けていたんだが


前髪が長くてパッと見は顔がよくわからなかったんだが、


近くでマジマジとみると意外と美形だったこと


何よりおっぱいが大きかったことが大きな理由であった。



「休憩しーや！」


黒い女にジュースを渡して日陰に連れて行った。


今度は、子ども用椅子には黒い女を座らせた。


黒い女の年齢は当時の俺の一つ上くらい。


「今日はナンパしに来たんやけど、女の子に話しかけるきっかけにするから



その椅子と黒い衣装を貸してくれ！」

って軽くボケたら笑ってくれた。


笑顔になるとマジで普通に可愛い女の子。



海水浴に来て初めて会話した若い女の子だしおっぱいが大きいから、俺、ちょっと舞い上がってたと思う。



黒い女、いわく。

海水浴にいる俺を遠くから見ててちょっと気になってたらしく、



仲間から離れて一人になったら話しかける機会をずっと伺ってたという。


これは、一言で直訳すると「今夜抱いてください」ってことだと思った。



完全に舞い上がった俺は、これから遊ぼうと誘っても、今日はまだ活動があるから無理とのこと。



んじゃ、後日、神戸でデートしようと約束して、俺は電話番号を彼女に伝えた。



帰りの車の中、落胆している仲間たちを尻目に俺はテンションが上がっていた。


黒い女との出会いは内緒にしていたが


「これが『ひと夏の恋』なのか？」


なんだか股間と胸がドクドクと脈を打っていたのがわかった。



そして次の日にさっそく黒い女から連絡がかかってきた。


このひと夏の恋から俺が電話番号を変えるまでの間






黒い女からの宗教の勧誘電話が、ほんまにエグかってん。



しかも途中から俺の担当がオッサンに変わった



こうして黒い女には「ひと夏の恋」どころか宗教の勧誘対象としてしか見られなかった俺だが、


男に誘われるなら冬よりも夏。


夏には女性が開放的な気分になるってのは必ずあると思うんやけど、実際はどうでしょう？