どうやら俺はどこにでもいるような風貌をしているらしくて


初めて会う人には､しょっちゅう


｢○○に似ている｣


と言われることがある｡


例えば合ｺﾝだったら


｢友達の彼氏に似ている｣とか―｡


｢高校の時の剣道部のｷｬﾌﾟﾃﾝ｣とか―｡



取引先だったら


｢甥っ子に似ている｣とか―｡


｢ｳﾁの社員にそっくり｣とか―｡



これが､まだ｢芸能人の○○に似ている｣と言われれば俺も何らかのﾘｱｸｼｮﾝを取ることはできるんだが



俺のまったく知らない人に似ていると言われても､

ただただ､｢ｴﾍﾍ｣と苦笑いするしかないのである｡



俺が初対面の人とのﾄｰｸでﾘｱｸｼｮﾝがとれずに困ってしまい苦笑いしてしまうのは


『昨晩に見たという夢の話を嬉しそうに語る人』と

『俺の知らない人に似てる話』の


２つだけである｡


日本にどれだけ俺がおるねんと不安になるくらい､どこにでもいるらしい｡


しかも､夏に遊びすぎて真っ黒に日焼けしてた頃｡

心斎橋のﾋﾞｯｸｶﾒﾗ前で



なぜか東南ｱｼﾞｱ人の観光客に手を引っ張られて､


集合場所の観光ﾊﾞｽに乗せられそうになったこともある｡



どうやら俺は世界中に点在しているらしい｡



十分な資金力があったら世界中の俺をかき集めて､集合写真を撮って

世界で一番難しい｢ｳｫｰﾘｰ（りょうま）を探せ｣でもしてみたい｡




さて､そんな感じの俺だから､日常的に人違いされることがとても多い｡


知らない人に後ろから｢久しぶり！｣って肩を叩かれて振り返ると

｢ｷﾞｮｯ！｣とした感じで驚かれて

俺の肩に乗せた手を離すと､気まずそうに後頭部を掻きながら去っていく人―｡



人がたくさんいる祭りなんかで､前から歩いて来る知らない人が､俺と目が合うやいなや

｢おおっｰ！｣

って俺の顔を見つめながら満面の笑みで手を振って走り寄って来るんだが


どうやら近距離になって人違いだと気づき


そのまま手を振りながら俺を通り越して群衆の中に消えて行った人｡




色んな人に､人違いされて気付いたことなんだが

｢間違えました｣

って素直に謝る人って本当に少ないと思う（笑）



こないだも強烈な人に遭遇した―｡


終電の電車の中で50歳位のｻﾗﾘｰﾏﾝが俺の前に立った



｢おおっ！！久しぶりやね｣

少し酒臭いからﾎﾛ酔いなんだろうか｡



｢元気にしてたん？｣

俺の顔を見ても､ずっと話しかけてくる｡



俺は暗記力については非常に残念な人だが

記憶力については自信がある方で一度､会った人を忘れることは､滅多に無い｡


ただ､泥酔した時に会う人なんかはちょくちょく記憶から漏れてしまう場合もあるみたい｡


なので､このｻﾗｰﾘﾏﾝも｡俺の中で忘れてしまった人の可能性があるわけだ｡

とりあえず相手に不快な気分にさせてはﾏｽﾞｲと思った俺は―｡


｢ああ！本当に久しぶりですね｡おかげさまで元気でしたよ｣

しばらくは相手と会話を合わせてみることにした｡



こうやって､あやふやなまま､何気ない会話を交わし､言葉のｷｰﾜｰﾄﾞを拾いつつ

頭の中はﾌﾙ回転状態にして記憶の引き出しから人物を思い出していくのが､従来の俺のやり方である｡


ただ会話しても､まったく思い当たるふしがない｡



するとｻﾗﾘｰﾏﾝが


｢最近もｺﾚやってるのん？｣と―｡


俺の前で､重量挙げのように､膝を曲げて両手を天井に伸ばした奇妙な動作を繰り返している｡




俺のこれまでの人生の歴史をひも解いて奥底に閉まってある記憶の引き出しを開いても､


こんなわけのわからん奇妙な動作はしたことがない｡




ﾊｯｷﾘした｡

完全に人間違いである―｡



俺は､奇妙な動作を繰り返しているｻﾗｰﾘﾏﾝを見つめながら


ﾀｲﾑｽﾘｯﾌﾟして初めてiphoneを見た原始人のように


全身全霊の『困惑顔』をしてやった｡



｢････ん？｣

ｻﾗﾘｰﾏﾝが､ﾏｼﾞﾏｼﾞと俺の困惑顔を見て

『あ！ﾜｼやっちゃった顔』をしたのを俺は見逃さなかった｡



吊革をつかみｶﾞﾀﾝｺﾞﾄﾝと揺れる電車の音を聞きながら無言で流れる夜景を見つめるｻﾗﾘｰﾏﾝと俺｡



２人の間はすっごい気まずい空気である｡



ふいに､ｻﾗﾘｰﾏﾝが俺の方に向き直るから､人違いを謝って来るんかなって思ったら




｢今日､阪神勝ちましたね…｣

ってまだ会話､続けんのかいっ！！！


しかも敬語に変わってるうえに､大阪名物“会話に困った時の｢阪神頼み｣”やし｡



結局､俺ん家の最寄駅まで毒にも薬にもならん会話を続けて､

２人で頭をふかぶかと下げながら知らないｵｼﾞｻﾝとお別れをした｡



駅のﾎｰﾑを歩きながら､一つだけ気になることがあって―｡


俺のそっくりな人が今も続けてるｱﾚは結局､何やったんやろか？


両腕を天井に何度も伸ばしてみたが皆目見当もつかなかった｡



しかし､どうせ人違いされるなら


余命いくばくもない大富豪の行方不明になった長男か―


ｴｯﾁをお預けされてる欲求不満な美女の彼氏に間違えられたいものである｡