毎日、暑くて、暑くて、仕方がないので


涼しくなるように今日はちょっと怖い話をしたいと思う。



みなさんは『エンジェルさん』という遊びをご存じだろうか？



３０代で大阪出身の人はもしかしたら、やったことがあるのかもしれない。


『エンジェルさん』とはいわゆる『コックリさん』という降霊術のことである。



その当時、コックリさんは悪い霊を呼び出すから危険で

エンジェルさんなら良い霊を呼び出すから安心という何の根拠もない技法ある。



名前が違うだけでやり方はほとんどコックリさんと同じ。



エンジェルさんは机の上に

『YES、NO、鳥居、五十音表』

を記入した紙を置き

その紙の上に鉛筆を置いて参加者全（２人～４人）全員が力を抜いてその鉛筆を握る。



「エンジェルさん、エンジェルさん、おいでください。」


と呼びかけると鉛筆がひとりでに動くというものである。


例えば「明日の天気は？」ってエンジェルさんに質問すると


鉛筆が五十音表まで、ひとりでに移動して「あ」と「め」を囲う。


つまり「雨」ということになる。




俺が小学生の時、このエンジェルさんが一大ブームになっていた。



休み時間に女子達が「キャッキャ」と喜びながらエンジェルさんに夢中になっている。



しかも女子達は聞く質問がふざけてて


「私の好きな男子は誰ですか？」

って質問である―。



舐めてるのか。

俺がもし、呼び出されたエンジェルさんなら


「んな、こと、おまえがいちばんしってるやろ！！」

って鉛筆で囲ってたと思う。



ところが優しいエンジェルさんは

ちゃんと「タ・ナ・カ」と鉛筆を走らせてくれる。



そこで女子達は「キャー、当たってる！」と大喜び。


女はこの頃から、この手の占いが大好物。



一方の俺はエンジェルさんを冷ややかな視線で見ていた。


「田中君が好き」という参加者の女子の潜在意識が反映され

無自覚に手が「タ・ナ・カ」となるように鉛筆を動かしているはずだ。


そうなると他の参加者からしたら「ひとりでに動いた」と錯覚する。



その疑いが核心に変わったのは

女子達がエンジェルさんに男子を巻き込むようになったのである。



例えば田中くんが好きな女子が、エンジェルさんの参加者に田中くんも入れる。


そして


「私と付き合う人は誰ですか？」と質問する。



鉛筆は「タ・ナ・カ」と動く。


そこで女子が一斉に「キャー！いやだ～！田中君だって」ってはやし立てる。


田中くんが好きな女子は、「ヤダー！」とか照れながらも否定も肯定もせず、

潤んだ瞳でミニーマウスがミッキーに接するような仕草で田中君を見つめる。



田中くんは恐怖に顔を引きつらせながら


「エンジェルさんに言われれば付き合うしかないやん・・・」


とその日の帰り道はその女子と手をつないで帰るのである。



そんな感じでエンジェルさんのおかげで、この時期は新しいカップルが続々と誕生した。



奴ら（女子）はグルである。

女はこの頃から恋愛成就の為には手段を選ばないのである。



そして遂に俺に「エンジェルさん」参加の白羽の矢が立ったのである―。



基本的にこの年齢になるまで、モテない街道を突っ走しってきた俺だが

この頃、ものすごく俺のことが好きな女子が一人いた。



名前は、たる子（仮名）


たる子は残念な女子であった。


小学生にして、オ○ム真理教の尊師・麻原○晃に瓜二つのルックスで


それで性格がよければ、まだいいが、クソがつくほどの最悪な性格で


もう、どこをどう見ても、何ひとつイイところが見つからないカルマの深い女子であった。


男子はみんな「ジャイ子」と呼んで毛嫌いしていたのである。


俺も本当に苦手な女子であったが、躾にほとんど無関心なオカンだったが


『人間の身体的特徴で他人をけなすな！』


『女性には常に優しくあれ！』


ってのは、相当厳しく注意を受けていたので


内心は、毎日「ジャイ子、しばくぞ！」と言いたかったが


オカンの言いつけを守って、たる子には何も触れず、むしろ普通の女子として扱った。



それがいけなかった―。



「たる子はりょうまが好きらしいで」


クラス一の情報通の、幼馴染「ヨシ」から、その情報が入ってからというもの、

毎晩のように悪夢にうなされた。


まるで尊師からの「ポア」の宣告である。


悪口を言わない理由で好きになられたら、俺は世界中の女を愛人にできる。




「りょうま、早くこっち来て～！！」


たる子がエンジェルさんのスタンバイの状態で俺に手招きしている。


ちなみに参加者の他の二人の女子もたる子ファミリーである。



たる子ファミリーはグルになってエンジェルさんを利用し、完全に俺を落とす気なのだ。



たる子の顔が、心なしか紅潮している。



俺は、たる子が襲いかかって来ないか、警戒しながら席に座り鉛筆を握る。



そして、たる子がダミ声をあげて


「エンジェルさん、エンジェルさん、おいでください。」


俺の中では


（たのむ、エンジェルさん、来るな、来るな！来るな！）である。



鉛筆が「ＹＥＳ」の方向に動いた。


エンジェルさんが来たという合図である。


たる子の手に力が入っているのが俺の手に伝わる。


間違いなく、たる子が動かしていることは核心した。



「いつ仕掛けてくるのか・・・・」


突然、たる子が大声で


「私と付き合う人は・・・」


一気に手に力が入る。



「誰ですか？」まで待たずに、たる子はフライングで


「りょうま」の「り」の字に、思いっきりペンを走らせる


「そうはさせるか！」とばかりに「り」に向かう鉛筆をくい止める俺。



たる子の狙いは完全に「りょうま」。



俺はそれを拒否し、狙いは「ヨシ」。




何も知らないヨシや男子達が不安そうにギャラリーをしている。



紙の上でお互いの意地がぶつかり合い手がプルプル震える・・・



タレ目のたる子の目が、キツネよりも吊り上がりフーフーと呼吸が荒い。


本当にコックリさんに取り憑かれてるのでは無いのかとすっごく怖かった。



あまりの、たる子の恐ろしい形相に、他の参加者がビビって鉛筆から手を離した。



俺とたる子の一騎打ちである。



ちょうど、腕相撲をしているような、かっこうだ。



お互い力が入っているので机がガタガタ揺れる。


エンジェルさんに何とかして「りょうま」と言わせたい、たる子。

徹底抗戦の俺。



力と力の真っ向勝負である。


ところが、たる子の手が滑り、力のバランスが崩れると、鉛筆の先が囲ったのは



五十音から大きく外れ





「ＮＯ」の文字であった。




つまり「私と付き合う人は誰ですか？」の質問に


エンジェルさんは

「ＮＯ（いないと）」と答えたことになる。




シーンと静まりかえる教室―。



堰を切ったように「ワー！」っと歓喜の声を挙げる男子達。



歓声の中、緊張と安堵感からか、なぜか涙がこぼれそうになる俺。



ガックリとうなだれる、たる子とその仲間たち。



「付き合う人は誰ですか？」で「ＮＯ」になったら、たまらないと―


見ていた女子はこの日以来、誰もエンジェルさんをしなくなったのである。



これが母校で俗にいう

「りょうまのエンジェルさん救世主事件」

のあらましである。



その後も、たる子とは様々な因縁があるのだが、それはまた別のお話。




※コックリさんの類は洒落にならないこともあるそうなので良い子は真似をしないように。