俺は度量の狭い｢ｹﾂの穴が小さい男｣が大っ嫌いで､なるべくｹﾂの穴の小さい男は避けるようにしている｡




そんな話を京橋の居酒屋で話してたら､隣で呑んでるＡ君は



｢ﾎﾞｸはｹﾂの穴の小さい男の方が好きやけどな｣と不適に笑う｡



Ａ君はｹﾂの穴の小さい男が好き｡



何故なら






ｹﾞｲだから｡






小さいと言っても根元が小さく締まってて中がふんわりしてる肛門がいいらしく




一般的に女性の場合は｢名器｣とか言われるが､ｹﾞｲの世界でｲｲ肛門のことを


『名門』


と呼んでいて､その道の人には大変ありがたいﾓﾉであり､名門の称号は最高の褒め言葉にあたるそうだ｡




ちなみに､超ﾒﾀﾎﾞでお腹が出すぎてﾎﾞﾖﾝと垂れ下がった女性に嫌われるＮＯ１ﾋﾞｼﾞｭｱﾙの人も､この道では




『ｴﾌﾟﾛﾝ』


と呼ばれ､｢ﾏﾆｱ｣には最高にｳｹがいいらしい｡





さて､そんなＡ君と会ったのは､もう１０年近く前になるだろうか｡


俺が２５歳くらいだったと思う｡




忙しい先輩の代わりに､俺はとあるｸﾗﾌﾞｲﾍﾞﾝﾄを取材する為に､梅田の東○り商店街の脇にある地下ｸﾗﾌﾞに出向いていた｡




先輩の代打なんで詳しいｲﾍﾞﾝﾄ内容は聞かされていなかった｡




ただｸﾗﾌﾞｲﾍﾞﾝﾄならひょとしたら､ｴﾛ女と出会って･･･的なﾁﾝｺﾓｰﾄﾞだったんで詳しく聞かなかったんだと思う｡




｢このｲﾍﾞﾝﾄどこかおかしい｣


気付くのにそう時間はかからなかった｡




異常に女が少ないのである｡


女のいないｸﾗﾌﾞｲﾍﾞﾝﾄなんて見たことが無かったからである｡



妙な違和感を抱えたままﾄｲﾚに入った瞬間に､胸騒ぎは確信に変わった｡



ﾑｯｷﾑｯｷの白人男性２人が抱き合いながらﾃﾞｨｰﾌﾟｷｽをしているﾎﾟｽﾀｰを発見！！



りょうまｾﾝｻｰが危険信号を点滅させている｡






ｻﾞ･ｹﾞｲｲﾍﾞﾝﾄ！！！




｢もしもし､先輩！ここ大変な現場になってます｣半泣きの俺｡



｢あれ言わなかったっけ？｣としらばっくれる先輩｡




忙しいなんて嘘だ｡


絶対にｹﾞｲｲﾍﾞﾝﾄを俺に押し付けるための罠だったと思う｡



しかし､いくら助けを請うても､忙しいの一点張りで埒があかず取材するしか他が無いのである｡




先輩への目一杯の抗議として｡



｢もし俺がその道の世界に入ってしまったら､先輩は責任を持って､週に２回は俺を犯してくれますか？｣




先輩は無言で電話を切った｡






ＤＪﾌﾞｰｽにｵｶﾏがお姉言葉で､参加者を煽る｡



ｽﾃｰｼﾞでは大音量と強烈なﾌﾗｯｼｭ｡



爆音のｽﾃｰｼﾞで踊り狂う男､男､男､男｡



男ばっか100人くらい。


熱気だけは岸和田のだんじり祭り。



よく見ると




手をつないで見つめあう男と男｡



ただひたすら抱き合っている男と男｡



延々とｷｽを交わしている男と男｡



激しいﾀﾞﾝｽで周囲から爆笑をかってるﾃﾞﾌﾞのｵｶﾏ｡




すべてがｶﾙﾁｬｰｼｮｯｸである｡




周りの男達全てが俺を狙ってるんじゃないかと､疑心暗鬼になってびくびくしていた｡




俺はどうなってしまうんだろうか･･･




そして２時間後･･･








完全にｹﾞｲｲﾍﾞﾝﾄに順応して楽しんでる俺がいた｡



そこは我ながらｽｺﾞｲとこだと思う｡




特にｵｶﾏは本当に楽しい｡



頭の回転は速いし､会話は熟練されてるし､人の痛みも知ってるし､親友にするなら絶対にｵｶﾏに限るなと思った｡



ただ､見るからにそうとわかるｵｶﾏは少数で後は､圧倒的に外見は普通の男である｡



そこが何だかﾘｱﾙであった｡




色んな人にｲﾝﾀﾋﾞｭｰをした｡




その中の一人がＡ君だったのだ｡



Ａ君は自分がｹﾞｲであることを､弟だけに伝え（両親と姉は知らない）会社の同僚にもｶﾐﾝｸﾞｱｳﾄはしていないという｡




実はほとんどの参加ﾒﾝﾊﾞｰが日常生活では｢ｹﾞｲ｣であることをｶﾐﾝｸﾞｱｳﾄしていないという｡



彼らのほとんどは同性愛者であることを､ひた隠しにして生活しているのだ｡




世の中はまだ､ｾｸｼｬﾙﾏﾘﾉﾘﾃｨｰへの風当たりも強く､偏見や差別意識が根強く残っている｡



冗談ではなく｢ｹﾞｲ＝ＨＩＶ感染者｣と思ってる人も多いんだって｡



そんな社会だから彼らは仮面をかぶって生きていくしかないのだ｡



そんな俺もｹﾞｲの友人がいるにも関わらず､その偏見的意識はｾﾞﾛでは無いのである｡



知らない人ならもっとだろう｡




自分らしく生きれない窮屈感って本当にたまらんよな｡


俺なら地獄だ｡




Ａ君はｷﾗｷﾗした瞳で言った。


｢この年に１回のｲﾍﾞﾝﾄで､隠していた一年分の｢自分｣をいっぺんにさらけ出してるんです｣





地下から地上に出ると､今､ここでお姉言葉を使ってはしゃぎまくっている彼達は


また仮面を被り､言葉を戻し､自分を押し殺した窮屈な日常生活に各々､戻らなくてはならないのだ｡





ｽﾃｰｼﾞ上の楽しいﾊﾟﾌｫｰﾏﾝｽをｶｳﾝﾀｰでぼんやり見つめていた｡



楽しいｲﾍﾞﾝﾄだけに同時になんだか切ない気持ちになってしまい､その楽と哀のｺﾝﾄﾗｽﾄに､なんだか涙腺がゆるんでｽﾃｰｼﾞがぼやけてしまった｡



自分をさらけ出して、心の底から純粋に楽しんでる彼らを見てると

どういう感情なのか･･･涙が止まらくなってしまったのである｡


ｵｶﾏにからかわれながら、嗚咽が止まらない。



決して同情や憐れみでは無い｡


なんの感情だったんだろうか、今でも自分ではよくわからない。




明け方にイベントは解散となったんだが､遠方から参加しているメンバーもいて




「○○のラブホテルなら男数人同士でも泊まれる」

などの情報交換をメンバー間でしていて、ちょっとその先の展開を想像して軽くひいた。




さて帰ってからもなんかﾓﾔﾓﾔしていた気持ちを引きずっていて、仕事も手につかず思わずＡ君に連絡をして､また会うことにした｡



そしてその関係が今も続いているのである｡



関係と言ってもホモダチではないからね。




Ａ君は今もｶﾐﾝｸﾞｱｳﾄはせずに､親や友達からのお見合いや紹介から逃げながら､例のｲﾍﾞﾝﾄで出会った彼氏と長いこと付き合っている｡





彼氏がいるくせに､一回俺がﾍﾞﾛﾍﾞﾛに酔った時に俺を喰おうとしたことがあった｡




それは寸前で気づいて未遂に終わったんだが､ﾑｶﾂｸから




｢Ａと飲むと犯されそうになるから気をつけろ！！｣

飲み友10人くらいに一斉配信してやった｡


そう｡俺もｹﾂの穴の小さい男である！！！！





ただ『名門』では無いので､その道の人は俺にﾒｰﾙとか出さないように｡