ｿﾞｳは､１ｔ以上ある積荷を､鼻で軽々と持ち上げることができるくらい怪力の持ち主だという｡



だけど､ｻｰｶｽで見かけるｿﾞｳは､小さな杭につながれたまま､逃げもせずに大人しくしている｡




ぶっちゃけ､その気になれば杭なんか簡単に引っこ抜ける怪力があるのに､なぜ大人しくしてるのか？




実はこういう理由があったのである｡




ｻｰｶｽでは､ｿﾞｳがまだ小さな子どものうちに､杭につないで､いくら力を入れて引っ張っても､その杭を引きぬけないことを体験させる｡



やがて､そのｿﾞｳが成長して身体が大きくなり､力が強くなっても



｢杭は引きぬけないもの｣

という経験を覚えていて､今も同じだと思いこんでいるから杭に繋がられても逃げないんだって｡



象さんもったいない｡



幼少の頃の｢思いこみ｣に縛られて自分の能力に気付かないなんて｡



俺が小･中学校時代に｡Ｈ君というものすごくﾃﾞﾌﾞの友人がいた｡



安田大ｻｰｶｽのﾋﾛをｲﾒｰｼﾞしてくれたらいいくらいのﾃﾞﾌﾞである｡




ﾃﾞﾌﾞはことｽﾎﾟｰﾂにおいては､ものすごく周りに縛られる｡





野球のﾎﾟｼﾞｼｮﾝは問答無用に


｢ｷｬｯﾁｬｰ｣





運動会の役割は


｢綱引きの後ろで綱を身体に巻きつける係｣




すんごく狭い｡




何故なら誰もが共通認識として持っていると思うが



｢ﾃﾞﾌﾞは走れない｣


みんなも本人もそう思い込んでいる｡




まぁ､事実､Ｈ君は足がめちゃくちゃ遅くて､


50ｍ走も女子を含めた全学年で一番遅くて､Ｈ君の走りを見て俺も腹を抱えて大爆笑したことがある｡



だってＨ君､平泳ぎみたいな走り方だったからｗｗ




体育の先生からは｢お前は走るより転がった方が速いんちゃうか？｣と揶揄されていた｡



ちなみにＨ君､身体は巨体だけどﾁﾝｺは肉に埋もれて見えなかった｡





さて､そんなＨ君が高校生の頃の話である｡




残念ながら､俺はその現場に居合わせていなかったんだが､Ｈ君を含めた仲間数人で深夜のとある山に肝試しに行ったそうである｡




仲間が塊になって｢怖い､怖い｣と震えながら､山を登っていたそうだ｡




すると深夜の山に｢ｶｰﾝ！ｶｰﾝ！｣と音が聞こえはじめたそうだ｡




そこはやっぱり若さだろうか､一同は怯えながらも音の方に近づいて行ったそうだ｡




そして彼らが目にしたのは




この世のものとは思えない形相で｢呪いのﾜﾗ人形｣を大木に打っているｵﾊﾞｻﾝだったという｡




現場にいた仲間は今でも語る｡



｢一番怖いのは幽霊でも妖怪でもなく､人を呪っている時の人間や｣




全員が恐怖に凍りついている中､大きな悲鳴を挙げたのはＨ君だった｡





Ｈ君の悲鳴を聞いた呪いのｵﾊﾞｻﾝが


｢見たな！！｣と言わんばかりに､手に持ったﾊﾝﾏｰを振りあげて


鬼のような形相でこっちに向って走ってきたという｡




まさに､ﾊﾟﾆｯｸ！！！




全員､蜘蛛の子を散らした様に山の中を逃げ惑う仲間たち｡




その中の一人で優しい友達がいるんだけど､逃げながらも足の遅いＨ君が心配になった｡



それで後ろを振り返ると､Ｈ君はいない｡



Ｈ君はどこだ？と暗くてよく見えないながらも月明りをたよりに探してみると




なんと､一番､先頭で悲鳴を挙げながら走ってるんだって｡




走り方は相変わらずの平泳ぎなんだが､



忍者のように木から木に飛び移るようなすばしっこさで逃げてたという｡



｢まさに疾風｡俺が見た時は､Ｈ君は若干空中に浮いてた｣


ってくらい早かったそうだ｡





誰だ､ﾃﾞﾌﾞが走れないって言った奴は｡






｢ﾃﾞﾌﾞは足が遅い｣


これは周りや本人が思い込んでいるだけで､実際のところその気になれば


ﾃﾞﾌﾞも早く走れるのである｡




自分の能力を知ったＨ君は､その後､ﾗｸﾞﾋﾞｰ部に入り






三か月で辞めた｡







みんなは縛ってないかな？自分を｡




どうせ俺なんて､私なんかってと思いこんでないだろうか｡



可能性なんかやってみんとわからもんや｡



Ｈ君やｻｰｶｽの象さんみたいになるのはもったいないでと俺は思う｡




そういうこともあってか｡




俺は自分自身も他人も極力｢お前はこうだ｣と縛らないようにはしているんだが



ただ､女性への｢亀甲縛り｣は少し興味が出てきたのである｡