海を見るおじさん[晴れ][曇り][雨]
40代前半  大阪府
2013/07/10 2:45
海を見るおじさん[晴れ][曇り][雨]



俺はこう見えても(見えないけど)昔、ヨットをたしなんでいた。




お金持ちの叔父がヨットを所持していたので俺が叔父に寄生して毎週のように、やれレースだ!やれクルージングだ!と海に繰り出していた。




まぁ、色々とヨットにまつわるエピソードはあるんだが、それはおいおい話すとして






当時、俺が20歳くらいのころで、ヨットハーバーに集まる人たちは40代後半から60代の金持ちのおっちゃん達が中心。





金曜日の夜になるとヨットハーバーに集まりだして、船の中で宴会が開かれる。




一見してヨットで飲むなんて贅沢っぽいが、実はお店とかで飲むよりもよりも全然安上がり。



ユラユラ揺れてるので酔いもすぐ回るしな。




金持ちは無駄金は使わないから金持ちなのだ。






若いというだけで可愛がられてた俺は、様々なヨットをはしごしては「おう!りょうま来たか!」って歓迎されてたくさん飲ませてくれた。





俺の酒飲みロードはこの頃か始まったと言っても過言ではない。





オッサンばっかだったので若い俺がよくナンパもさせられたが、「船の中で酒飲む?」って言えばだいたい女の子はついてきた。





時間が経つと女の喘ぎ声がヨットの中から聞こえて、そりゃあたまらんものがあった。






ヨットハーバーに集まる大人たちは個性的な人が多かったが、その中でも群を抜いて不思議な人がいた




「たもっちゃん」と言われる50代くらいのおっちゃん。





たもっちゃんは、ぽっこりお腹の小太りで背もちっちゃくて色黒、短パンとランニングが決まりのファッション。



いつも目がトロ~ンとして眠そうな顔をしていた。



まったく金持ちそうに見えない。





ほとんど話をしない無口な人で本当に不思議なオッチャンであった。







そして何よりすごいインパクトがあって




いつも同じカラフルな帽子をかぶっているのだが




その帽子の頭の部分に、







タケコプターのようなプロペラがついていた。




タケコプターである。


初めて会った時は本当に驚いた。





俺のそれまでの人生の中で、




頭にタケコプターを装着した大人なんて見たことが無いもの。




いやドラえもんの中でしか見たことが無い。





あまりのインパクトに俺が絶句してると、






叔父は笑いながら「大丈夫、ええ人やから」だけ言い残すと、クラブハウスの方に何かの手続きをしに行った。





二人っきりの俺とたもっちゃん。



めっちゃ気まずい時間が流れる・・・



ほとんど話さないたもっちゃんだから



二人の間には、カタカタカタ…とタケコプター回る音だけが鳴っていた。







実はこの「たもっちゃん」はヨットのオーナーでもなければ、メンバーの知り合いとかでも無い。




いつの間にかヨットハーバーに来るようになった人だという。






つまり誰も、たもっちゃんの素性を知らない。




だけども、メンバーからは好かれていたし、ありがたがられていた。





ヨットハーバーにいるたもっちゃんは





いつも、ヨットハーバー横の堤防の先が特等席で、いつもボ~っと突っ立って外海を見つめていた。




(あの人は何をしてるんやろ?)


俺も不思議に思ってた。






話を聞くと、たもっちゃんには不思議な能力があるらしく、海が荒れる時は察知してみんなに知らせてくれるらしい。




ある日こんな出来事があったという。




何隻かで合同クルージングに出発しようとしてたら、


堤防から猛ダッシュで走ってきた、たもっちゃんが必死に出港しようとするメンバーを止めてたんだって。





普段は無口なたもっちゃんが声を荒げながら、止めてたので、これはただごとではないとリーダーが出港を取りやめた。






するとその夜に嵐が来て海が大変なことになったらしい。







そういうことが何度もあったらしく、たもっちゃんが「今日はダメ」って言う日は誰も出港しなくなった。

(ダメって言った日でも実際は荒れない日もあったらしいが・・・)





ただ、そういうこともあってか、たもっちゃんは海の男たちに好かれていた。






最初は気味悪かったけど、ヨットハーバーに通っていくうちに俺もたもっちゃんとは仲良しになっていた。




「何で海が荒れるかわかるの?」



聞いても、よくわからん返答が返ってくるだけ。





もしかして風車で風の向きや強さを測れるように頭についてるタケコプターに何か秘密があるんじゃないかと




俺は注意深く、たもっちゃんの帽子を観察してた。





すると困ったことに




たもっちゃんは、俺があまりにもタケコプターをじーっと見るので帽子を「欲しがってる」と思ったみたいで




ある日、俺の方に歩いてくると


「欲しいやろ?あげる!」って帽子を脱ぐやいなや俺の頭にヘリコプター付きの帽子をかぶせてきた。





シラフなら、そんな変な帽子は丁重に突っ返すんだが、その日はベロベロに酔っていて




たもっちゃんの帽子を被りながら、ハイテンションで各ヨットに回って自慢しに行った。





何故かその夜の飲み会は




俺の「2代目たもっちゃん襲名披露」ってことになって大いに盛り上がった。




たもっちゃんもニコニコ嬉しそうだった。







そしてその日の夜を境に



たもっちゃんの姿を見ることはなくなった。







俺に帽子をくれてから、たもっちゃんはヨットハーバーには現れなくなったのである。




2代目たもっちゃん襲名披露とかしたから、気を悪くしたかな・・・って気にはなったが




周りの人の話では、



「重い病気になって入院してる」だの、「九州に引っ越した」だの「死んだ」だの色んな説が飛びかったが






たもっちゃんが来なくなった理由は実際のところは誰にもわからなかった。






あれから15年が経った。




俺も環境が変わって忙しくなりヨットから離れてずいぶん久しい。





たもっちゃんの帽子は叔父のヨットの中に置きっぱなしにしていたのだが





先日、ヨットを買い替える予定の叔父さんから「たもっちゃんの帽子どうするねん?」って電話があった。







捨ててちょうだいともなかなか言えない。







とりあえず3代目たもっちゃんを探してみようかと思ってる。






誰か、たもっちゃんになりたい人いる?







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コメント

40代前半  大阪府

2013/07/10 10:51

2. >たかしちゃんさん

女の子が今日はダメって言う日は、

生理で気性が荒れてます(´Д` )

50代前半  大阪府

2013/07/10 10:14

1. 『たもっちゃん』『岡本っちゃん』『山本っちゃん』『坂本っちゃん』『さとっちゃん』いろいろいるけど、

一番なりたいのは、やっぱり『まこっちゃん』かな。←誰やねんそれ。

たもっちゃんが今日はダメって言う日は海が荒れるけど、女の子が今日はダメって言う日は、肌が荒れてます。

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