男はロマンチストで女はリアリスト
ずいぶん古い付き合いで、Tさんという先輩がいる。
Tさんは根はいい人で憎めない人柄で大好きな先輩なのだが、
漫画のような生き方をする人で
「俺は億万長者になるぞっ!!」
ってのが口癖で昔から胡散臭い商売に手を出しては失敗を続けていた。
毎年、夏のはじめ蝉の声が鳴き始めた頃にTさんから「りょうま会おう!!」と電話がかかってくる。
今から8年くらい前の話。
「りょうま、すぐに来れる?」とTさんから電話。
行ってみると、Tさんが両手に2リットルのペットボトルを抱えていた。
「りょうま!!すごい水ができたぞ!!この水さえ飲めば、酒を飲んでいてもアルコール濃度の検知ができなくなるねん」
Tさん曰く、いくら酒を飲んでも、その水さえ飲めばその水の化学的効果で呼気中アルコール濃度がゼロになるという。
つまり「飲酒運転で捕まらない水」だそうだ。
Tさんの貸倉庫には大量にその水の在庫があって、
「これは売れるぞ~!!」とTさんは腕まくりをして目を輝かせていた。
俺はその大量の水を見ながら内心(胡散臭いなぁ…)って思ってた。
それから一週間後くらいにTさんから電話がかかってきて
「りょうま、頼みがあんねんけど」
「なんですか?」
「飲酒運転で捕まったから20万円貸してくれ」
「・・・Tさん、あんた
例の水飲まんかったん?」
「もちろん飲んだで」
「だったら?なんで・・・」
「いや~、あの水さぁ
二日酔いには効果てきめんなんやけどね」
あれから8年経ったが、まだ2万円しか返してもらっていない。
その後も夏になるとTさんから連絡がかかってきて
「りょうま!すごいベッドができたで!!」
とある国の特別な「砂」が睡眠している人間の体にいいらしく、その砂で作られたベッドの日本での販売権を得たとのこと。
「日本は健康ブームやから飛ぶように売れるやろ?」とTさんは目を輝かせた
ところが
全部砂でできているだけに、そのベッドの重量が自動車と同じくらいの重量らしく
「場合によってはベッドを設置すると床が抜ける恐れがあります」という注意書きがあることと
ベッドの価格はTさんの手腕により安価で購入できるが
そのベッドを設置するのに大型船と大型クレーン、相当の数の人員がいることで、
送料だけで約30万円。
「誰が買うねん!!」ってことで、このビジネスもとん挫した。
その後も夏になると新ビジネスをひっさげて連絡がかかってきた。
詳細は省くが
某国でトロと同じ味の深海魚の養殖。
某国で生ゴミをガソリンに変えるプロジェクト。
Tさんのたくましさとバイタリティは認めるが
もう全部失敗。(そらそうやろ)
そしてここ数年、Tさんからパッタリと連絡がなくなっていた。
こっちから連絡してもいつも電話がつながらない。
夏になると変なものに手を出してるんじゃないかと密かに楽しみしてたから「さびしいなぁ」って思ってた。
すると先週末にTさんからいきなり連絡がかかってきた。
「りょうま元気にしてた?家に来て飲まん?」
「行きます、行きます」
ヨシと地元の友達と3人でTさんの家に飲みに行くことにした。
久しぶりに会ったTさんは、少し日焼けをして逞しくなっていた。
その横には奥さんがいた。
この奥さん、ものすごくよくできた奥さんで、Tさんはこのような人だから結婚してから生活費は一切家には入れていない。
生活費は奥さんがパートで働いて捻出し
Tさんの借金は、結婚時に奥さんのお父さんが買ってくれた新築一戸建ての家を売却。さらに、そのお父さんが亡くなった遺産(土地)で借金を「一部」穴埋めしている。
結婚してから17年。
子供も作らずにずっと旦那であるTさんを寡黙に支え続けている立派な奥さんである。
「Tさん、今は何のビジネスしてんの?」
遂に我慢できずに聞いてしまう俺。
Tさんは、人差し指を唇にあてウインクすると
「今はまだ言えん。国が絡んどるからなぁ」
国家絡みのプロジェクト(笑)
Tさんや奥さんに悪いが、俺のワクワクが止まらない。
そして飲み進めていくうちに「夫婦」についての話題になった。
Tさんは酔いが回っていたのか、珍しくしんみりとした口調で横に座っている奥さんのことを話し始める。
「こいつ(奥さん)には本当に感謝している。
俺もいつまで生きるかわからんような生き方や。
だけども、もし俺が死んで生まれ変わっても、またこいつと結婚したいねん・・・」
結婚してから約17年。
苦労を共に歩んできた夫婦である。
目を潤ませて語るTさんに何だか俺は不覚にも熱いものが込み上げジーンとしてしまっていた。
ヨシや地元の友人も同様である。
Tさんは続ける・・・
「なぁ、Y子(奥さん)…もし、生まれ変わっても必ずお前をまた探し出すからな…また一緒になろうな」
奥さんは目に涙をためて話を聞いている。
俺ももらい泣きしそうになった。
奥さんもまさかのTさんの言葉に感動してるんだろう・・・
何となく部屋が暖かい空気に包まれた。
すると奥さんは、涙を堪え切れず、
テーブルに突っ伏すと、
今まで聞いたことのない大声で
「嫌や!!!探さんといて!!!
もう、生まれ変わっても、絶対に!絶対に!この人だけは嫌や~!!!!」
吉本新喜劇以外で初めて
素でイスからこけるTさんの姿を見た。
先ほどまで暖かった空気が一変した静かなリビングに「嫌や!嫌や!嫌や!」と髪を振り乱し連呼しながら嗚咽する奥さん。
「り、りょうま外に飲みに行こうか」
我々は、号泣している奥さんを尻目に、逃げるように部屋を出たのであった。
居酒屋で「奥さんを泣かしちゃダメ!」って俺たちの説教を鼻で笑い
「大丈夫!今度こそ億万長者になるから」とTさん。
(ほんまに男はロマンチスト(バカ)だけど、女はリアリスト)
そう感じた夜であった。
コメント
2013/09/02 7:55
4. Tさん(笑)面白い(笑)
人柄なん?お金返して貰えないのに?
Tさんに会うのは?
夢ばかり追ってるおバカさん?
(*ノ▽ノ)フフッ(((^^;)
返コメ
2013/09/02 7:32
3. 超ウケるリアルなオチだね(^-^)/
嫌だと言いながらも、離婚しないのは本当に凄いね\(//∇//)\
私は聞いただけで無理!友達なら、興味本位で関わるかも(^-^)/
返コメ
2013/09/02 7:30
2. ロマン“チン”グ・性(サガ)
(アエラの中吊り風コメント)
返コメ
2013/09/02 7:00
1. あははははは(笑)
朝から大笑いしました~!!
返コメ