「せんべろ」って言葉はご存じだろうか？




酒飲みなら聞き覚えのある言葉だと思うが



「せんべろ」とは




「千円でベロベロに酔える」という造語である。






千円で女の子にベロベロできるって意味じゃないから間違わないように。







さて、今でこそ何とか飲み代には不自由しないような身分にはなれたが、まだ俺が若かりし頃はとても貧乏であった。





できるかぎりお金がかからずベロベロになれないものかと同じく貧乏な飲み友達と試行錯誤していた。




ウイスキーや焼酎のでかいボトルを勝って友人のボロアパートで飲むのが一番、安くついたが





狭い世界（部屋）で毎日同じ友人と同じ話をして飲むのは痛くなってきたので





「外の世界に飛び出そう！」ってことになった。






でも貧乏だからとにかく安く飲めるところを探そう！ってことになったのである。






今でこそ全品２５０円均一みたいな居酒屋はゴロゴロあるが、当時はまだ存在していなくて、とにかく安そうなお店を探し歩いたのである。





ポケットに入ったありったけの小銭を飲み友達と合算して予算を決めて飲む。






それが意外に楽しかった。




やっぱり安く飲めるとなるなら立ち飲み屋が多かったな。





今は大手居酒屋チェーンが軒並み建っているが当時､森ノ宮にあった飲み屋は俺のお気に入りの一つだった。



友達と自転車を漕いでよく行ったものだ。




初めて入った時は衝撃的だった。





人が一人通れるかどうかの細長い小さな店。



壁のポスターには見るからにレトロなビールのポスターが張ってある。





カウンターの上には太った猫が寝ていてチラリと目を細めてこっちを見てくる。




そこに妙にクタビレタ感じの鼻が赤い爺さんがチビリ、チビリと酒を舐めていた。



（うっ、ヤバい店に来たか…）




客がいる、猫がいる。





だけど肝心なカウンターの奥にいるはずの店の人がいなかった。




でもせっかく自転車こいて来たし、好奇心も手伝ってか



「すいません～！すいません～！」と店主を呼んでみる。





すると「ハイ…ハイ…」って声が聞こえるやいなや






カウンターの向こうの壁から忍者屋敷の隠し扉のように壁が回転してお婆ちゃんが現れた。







驚いた後に友達と大爆笑してしまった。





この店にメニューは無い。



酒は日本酒か瓶ビールの２択。





アテ（関西でいうつまみ）はお婆ちゃんがお任せでコースのように出してくれる。



まず突き出しに小さい器に盛った「甘海老」が出てくる。






そしてメインのアテは大きい器にﾄﾞﾝと盛った







「甘海老」が出てくる。






やっぱり最後もガラスの器に盛った甘海老。





そう甘海老しか無いのである。




それは時々、マグロに代わるだけで１日に１品。




メニューの偏りは半端なかった。


大量購入をして安く仕入れるのだろうか？




ともかくめちゃくちゃ安く飲めた店であった。





他にも安そうな飲み屋を探しては暖簾をくぐった。





食品偽装の表示が色々と問題にはなっているが、俺が行く店にはそんなの関係無かった。




だって串焼の店でメニューには



「肉」としか書いていないのである。






鶏肉、豚肉、牛肉という表示では無い「肉」なのである。






それが肉である以上、何肉だろうが文句は言えない。



だって「肉」なのである。




他に「魚」というのがあったら恐らく陸に生息する肉だったとは思うが…





そういう経験があるから食品偽装のニュースを見ても、美味けりゃええやんって大らかに考える方だ。





今振り返っても「せんべろ」な一杯飲み屋で貴重な経験ができたと思う。





ものすごく好きな女性もいた。





常連客の中で２０代後半くらいの綺麗なお姉さん。



アパレルメーカーで働いていて仕事終わりだろうか
いつもスーツをﾋﾞｼっと着こんでいた。





そのお姉さんがだいたい毎日同じ時間に来るので俺は密かに楽しみにしていた。






お姉さんんが来るとまずは腕まくりして長い髪を後ろにギュっと縛る。


そして喉を鳴らして美味しそうにワンカップ大関を飲み干すのだ。



んでアテのゆで卵を食って「んじゃ！またね」っと顔色も変えずに颯爽と出ていくのである。



かっこいいのである。





ただ恋人にフラれたって日は、泣くわ、笑うわ、オッサン達と歌うわで大変だった。





その頃の名残か今でも女性らしい人よりも、こんな女性の方に惹かれてしまうのである。






そして、そこに集まる人たちが愉快、愉快。



すごい貴重な時間だった。



だて自分の親やお爺ちゃんの年齢の人たちと酒を飲み、色んな話を聞かせてくれる。





もう一生懸命に飲むし、一生懸命に語るのである、爺さんたちがｗ





当時、２０そこそこの若造の俺にとって、この人生の先輩たちとの交流は今の俺の「財産」になっている。





そうやって安い酒を飲むために外に出た結果、今の俺ができあったのである（いいか悪いかは別にしてな）




あれから月日が流れた。





あの当時、貧乏で貧乏で仕方がなかった仲間と今でも会合的に月１で飲む。




平均するとだいたい集める会費は２万円。



ちゃんと「上カルビ」とか「上ロース」とか肉の名前が書いてある店だからである。





当時はそれだけあったら一ケ月はベロベロで飲めたのにな。



店が変わっても話す内容は当時とまったく同じｗ




何も変わってないのである。







いや本当は変わっている、何もかも。






でも一生懸命、当時の「何か」に戻りたいから俺たちは定期的に会うし飲むし語らうのである。




それは当時、俺が触れ合った人生の先輩たちの姿なのかもしれない。






センベロの名残というかクセがあって今でも安そうな店があればついつい覗いてしまう。



だけどセンベロ店は早く閉まる店が多いから、俺が仕事を終えて飲む時間と合わないから残念。




「なぁ久しぶりに平日の昼間休んでセンベロ行く？」



「ええー、もう嫌やわｗ２度とごめん」


って当時の仲間は言うけど目の奥は輝いてる。





嘘つけ、本当は行きたいくせに。





年を重ねて環境は変わった。



でも大事なとこは変わりたくないなぁって思うからまたセンベロ店で飲みたい。





いつか全国にあるセンベロ店ツアーを慣行するのが目標である。






ちなみにセンベロじゃないけど




３千円で女性をベロベロできる店も当時はたくさんありました。