死ぬまでの人生の間にあと何回トイレのトラブルに見舞われるのだろうかと考えてしまう。





ある時は

用を足した後にトイレットペーパーが無かった。



ある時は

用を足した後、水が流れなかった。



ある時は

逆に水が流れすぎて大洪水になった。



ある時は

ＯＢ（ウンコが和式便器外に飛ぶ現象）




その事態に直面するたびに慌てふためき、恐れおののいてきたが


何とか今まで人類がこれまで築きあげてきた英知で見事に乗り切ってきたのである。






ある意味、このようなトイレでの修羅場を乗り越えてきたからこそ

今の俺があり人間的に一回りも二回りも成長してきたと言っても過言ではない。






昨晩の事であった。






あるお店で知人とメシを食ってたんだが、
急に便意をもよおし俺はトイレに駆け込んだ。






いつものように用を足し


いつものようにウォシュレットで洗浄する。






ものすごく勢いがある回転力の強いタイプのウォシュレットでアナルに適度な強い刺激があり非常に心地よい。



すごく俺好みなウォシュレットである。






そしていつものようにお尻を拭こうと思い

ウォシュレットの「止」ボタンを押す。






・・・・・・






アナルへの刺激が止まらない。







もう一度「止」を押す





・・・・・



アナルへの刺激がぜんぜん止まらない。







何度「止」を押しても


ウォシュレットが止まらないのである。





すごく強く押してみた。



アナルへの刺激が止まらない。





長押しをしてみた。


アナルへの刺激が止まらない。





高橋名人よろしく連射してみた。



アナルへの刺激が止まらない。






「イラっ」として手のひらでバンっと叩いてみたら「強」のボタンに親指が当たってしまい




アナルへの刺激がさらに強くなった。








「さて、どうするかな…」





あいにく助けを呼ぶ携帯電話は席に置いてきた。



この修羅場は自分の力で何とかしないといけない。






こういう時のための今までの経験。

トイレの修羅場に幾度となく生還してきた俺である。





俺はアナルに刺激を受けながら、考える人のポーズでこの修羅場をどう切り抜けるのかを考えていた。





こういうトラブルの時はどうすればいいのか・・・





トイレのトラブル・・・・





・・・・・・・






・・・・・・・








どういうわけか、いくら頭をひねっても










スパナを持った


森末慎二しか思い浮かばないのである。






“トイレのトラブル8000円、暮らし安心クラシアン～♪”


頭を振ってお馴染みの曲を頭から振りほどき、さらに思案する。







（俺にはまだ便意はあるか・・・？）




俺の作戦はこうである。




便器からせり出たウォシュレットの水の出る部分に








ウンコで蓋をすればいいのではないか。






今となってはこのﾊﾞｶで無謀な作戦がなぜ頭に浮かんだのかわからない。





俺は頭の回転は速い方だと思うし、知恵も働く方だと自負している。







ただいくら考えても





森末慎二かウンコで蓋をするしか思い浮かばないのである。








「アナルの刺激のせいだ」




考えている間、ずっと俺のアナルは刺激されていた。




昔、先輩がよく言ってたのだが


「アナルセックスはするなよ。アナルがバカになるぞ」と言ってた。





それを聞いてた俺はアナルがバカになると今まで思ってたのだが




バカになるのは頭の方だったのだ。







アナルを刺激されている間、まったく何も思い浮かばず、むしろ、あまりの心地よさに永遠にこのままでいいかなってさえ思ったほどである。






間違いなくアナル刺激は大脳に何らかの影響を与える。



恐ろしいぜ！前立腺刺激・・・。








最後に残された案は強行突破である。



しかしご存じのように今の俺は不自由な体。


水を避けて機敏に脱出することは不可能である。





この回転力のある勢いでは、便器から立った瞬間に間違いなく俺は水まみれになるだろう。


ギプスを替えたばかりなのに医者に怒られる。






何よりトイレに行ってくると席を立って

全身びしょびしょに濡れた俺が帰ってきたら知人はどう思うだろうか？





俺は「いや～、トイレでいい汗かいた」って言えば大丈夫か？






いやダメだ。





難産で汗だくになった妊婦のように

ものすごい大きなウンコをしたと思われるではないだろうか。





強行突破は避けよう。







コンコンとトイレのドアをノックする音。






ドキっとした。



当然といえば当然だが


他にウンコをしたいお客さんが待っているのである。





（ウンコがしたいんだろ？可愛そうに・・・

代われるものなら、今すぐにでも代わってやりたいさ。だけど・・・今はダメなんだ）




俺は頭を抱えた。





すると背後の壁の隅に電気コンセントが刺さってるのが見えた。





（恐らく便座を温める電気なのだろうが、


これは・・・この電気は・・・



ウォシュレットと関係あるのだろうか）







おそるおそる手を伸ばしコンセントを抜いてみた。




うん。


アナルの刺激が止まらない。





・・・・と思ってたら





回転と水流が弱まり、


やがて俺のアナルには何も感じなくなった。






（良かった、助かった・・・）



頭の中はファンファーレである。


修羅場をくぐりぬけた人間にしかわからない込み上げる安堵感。






俺は慌ててズボンを履き、ドアの前で待ってる男をトイレに迎え入れた。



入口のすれ違いざま、俺は男の耳元に




「ウォシュレットはアカンで」

とつぶやいて右手を挙げた。





鏡越しで男が不思議そうに俺に会釈をしているように見えた。





こうして俺はトイレの修羅場をまた一つくぐり抜け、人間的にさらに成長したと思っている。




ただし、あの後に、


お尻を拭いたのかどうかは今もあまり覚えていない。