俺が２０代の頃に「なっちゃん」と言う、太った女の子と合コンで知り合った。





今でいう柳原可奈子をさらに丸く大きくした感じである。






合コンをセッティングした友達が女側の代表の耳元に


「お前、あんなデブ連れてくんなや！」


と小声で激怒していた。





ところがどっこい、フタを開ければ





合コンでは、なっちゃんは大いにウケた。





とにかく面白かった。






自分のことを「フォーリン・デブ」と言い放つわ

過去の自虐ネタを惜しみもなく披露するわで

腹がよじれるほど笑った。





子どもの頃から太っていたらしく



中学の時に柔道部のデブな彼氏とデートをしてる時に、

偶然、街中で出会った相撲部屋の親方みたいな人が彼氏を見て背中やお尻をパンパン叩くと



「お相撲さんにならない？」

と名刺を渡されスカウトされたらしい。




その親方は隣にいるなっちゃんの方を見ると







「良かったら君もどうだ？」


って言われたという。







高校生の頃は「乗馬体験」ができるというアトラクションの列に並んでいると



係員に肩を叩かれ別室に案内されると「君のために特別に用意した馬がある」という。



その係員が引いてやってきた馬をよく見ると





馬ではなく




農耕用のムキムキの牛だったそうだ。



これらのエピソードがが本当かどうかわからないが

何度聞いても笑えるネタであった。





その合コンをきっかけになっちゃんは人気者になった。




俺たちがどこかに遊びに行く時や、イベントなどがあれば必ずなっちゃんを呼ぶようになった。





なっちゃんは優しいし周りへの気配りもできる。


何より彼女がいれば周りが明るくなるからである。







同性にも異性にもあれほど好かれていた人物は

後にも先にも俺は見たことがない。






なっちゃんは、彼氏は常に存在していた。





今考えれば、なっちゃんの優しい性格、器量を考えたら、彼氏の１人や２人がいても全然不思議じゃないのだが




当時は「なっちゃんは大好きだけど彼女じゃないわな」というのが我々、男性陣の共通認識であった。





では、何故、なっちゃんに彼氏が途切れないのか…






結論的には―



「セックスがかなりいいんじゃないか」


という意見でまとまった。





とりわけ親友のﾖｼは





「デブは口の中が熱いから気持ちいい」

というわけのわからない独自の解釈を持っていた。







さて、そこから月日が流れ、俺も仕事が忙しくなり
新しい友達もできたりで、しばらく「なっちゃん」と会う機会がなくなった。






ある日、昔の仲間の結婚式があるということで

実に４年ぶりくらいに当時の仲間と会うことになった。





久しぶりに会うなっちゃんを見て




俺はあまりの衝撃に「えー！？」という絶叫を繰り返した。






あのなっちゃんが







痩せて美人になっていたのである。










レコーディングダイエット（食ったのをメモするやつ）を始めて、みるみる体重が落ちて行ったらしい。







たしかに痩せたとは噂では聞いていた。



しかし脂肪が落ちるだけで、人間ってここまで見た目が変わるのか・・・


俺は、別人のごとく変貌を遂げたなっちゃんを見て愕然とした。







２次会でなっちゃんと同じテーブルになった。






テーブルは昔の懐かしい仲間。




俺は懐かしくて当時のスベらないなっちゃんの鉄板ネタをふった。





なっちゃんは


「はぁ？もう痩せたからおもんないって…」

俺のフリを拒否する。






何か非常に機嫌が悪い様子でツンツンしてる印象を受けた。



何となくテーブルの空気が重く感じた。







そして３次会には、なっちゃんは参加しなかった。




付き合いの良かった昔では考えられないことであった。





当時、なっちゃんと一番仲の良かった女と話した。



「あの子、痩せたとたんに人が変わってもうてな・・・」と顔をしかめた。






色んな人から話を聞いてまとめると


人が変わったというなっちゃんのへの罵詈雑言が続く。





俺の知らない３年で



あのなっちゃんが傲慢な性格の悪い女になってしまったらしい。






彼氏が離れ、友人も一人、二人と離れ、周りに人がいなくなった。






あれだけ人気のあった、なっちゃんが美人になったとたんに孤独になってしまったのである・・・。



皮肉なもんである。






よく美人は性格が悪いと言われる。





ただ「俺の経験上」美人には性格がいい人が多いような気がする。




なぜ美人は性格がいいのか―






美人は同性からの反感を買いやすい。





だから昔から美人の女性は、同性から嫌われないような術を身に着ける。





生きていくために自分が傲慢になってないか、
周りに気を配っているか常にチェックするシステムが身についている。





だから美人には性格がいい人が多いのではないかというのが俺の解釈である。





では、急に美人になってしまった、なっちゃんはどうだろうか。





小さい頃からデブだ、デブだとバカにされ続け



男からマスコットのようにイジられ



常に周りにいる可愛い女友達を見ては卑屈になる。




でも卑屈だと周りに嫌われてしまう。




何とか前に進むために選んだ道が自分を自虐して笑いに変え、誰に対しても優しく気配りをする女になること。






それはデブでバカにされ続けた、


なっちゃんなりの生きる術だったのかもしれない。




俺たちが知るなっちゃんは生きるための術として自らが作りだしたキャラクターだったのだ。






そして、仲良しだった俺も含めて当時の男も女も、


なっちゃんの一つ高いところから彼女を見下していた気持ちはゼロではなかったはず。



そしてそんな気持ちを彼女は恐らく実感していた。





「傲慢になったから…」と顔をしかめた女友達も



デブのなちゃんのままだったら、あそこまで顔をしかめなかったはず。





綺麗になったからこそ同性として余計に許せなくなったのではないかというのは
男目線の穿った見方なのだろうか。





そして痩せて綺麗になったことで周りの見る目が変わった。



長い間、抑圧して屈折していた自分を一気に解放した。



そんななっちゃんを誰が責めることができるのか。






結婚式の件から、なっちゃんとは疎遠になり

現在の近況はどうなってるのかはわからない。






男が離れていった理由を―






「痩せて口の中が熱くなくなったからや」

とヨシは今でも言う。






本当のところは誰にもわからない。