「もしよかったらセックスしませんか？」

って声かけらたら諸兄達ならどうします？







俺はありますよ。







福岡の深夜のサウナでレオナルド熊似のオッサンに「セックスしない？」って。






思わずびっくりしたけど多少免疫もあったので




「いや、いいです・・・」って即答したら



熊が「なんで？」って返してきた。




まさか「なんで？」なんて言葉が返ってくるなんて思いもよらなかったから、俺も思わず「なんで？」って返してしまった。






なんで？なんで？の応酬。





あんなに拒否したのは、心斎橋でラッセンの絵画を45万円で買わされそうになった時以来である。







さて、俺の場合はオッサンからだったから全身全霊で拒否したけど



若くて可愛い女から「セックスしませんか？」って誘われたらどうしただろう。







今から8年前の話。








俺はあるローカル局の深夜放送でアイドルグループを使った番組を担当していた。





売れないアイドルを寄せ集めた７人グループだったがその中の一人にＲって女の子がいた。



Ｒは当時２２歳で人気は７人の中で5番目くらい。






ただルックスは今流行りのハーフっぽい顔立ちで７人の中でも一番だったのだが、



とにかくバカすぎるのでファンが付いて来れなかったのではないかと思う。





テレビで活躍しているおバカタレントと言われる人達は実は本当は頭が良い。




ただＲのようなガチのバカはまったく使い物にならず当時は頭を何度も抱えた。






ある日、楽屋に行くとメンバー達がＲの話で盛り上がっていた。


その場にいない女の悪口を言って盛り上がるのは女の集団あるあるである。







「Ｒは家が無いらしい」




家が無いとはどういうことなのか。







どういうことか詳しく聞いてみたが、メンバー達は一応グループではあるが


お互いのプライバシーにまで首を突っ込むほど仲良しではない。






「詳しい話はわからないけど、Ｒちゃんは決まった家が無くて男の家を渡り歩いてるらしいです」







そういえばＲはどこの現場でも常に大きなスーツケースを持っていた。





「家が無い」




ずっとそれが気になっていたので、ある日Ｒと２人っきりになる機会があり、思い切って気になる噂話を聞いてみることにした。







「アハハハ！本当ですよ家無いんですよー！」




バカだけにあっけらかんと答えてくれた。






「今はセフレが４人いてそのセフレの家を転々としてますぅ～」




セフレが４人いるだけでも驚愕だったのだが、



さらに俺を驚かせる衝撃発言が・・・







「セフレができる前は大変でしたよ。街でオジさんに「セックスしませんか？」って声をかけて、その夜に泊る場所を確保してたんですよ」





そういう生活は高校生の頃に家出をしてから始めてたらしい。






バカだけに身の上話を何でも話す。





Ｒが家なき子になった理由は、書くと長くなるので省略するが、想像通り生まれ育った家庭環境は聞いてて涙が出そうになるほど劣悪な環境であった。






Ｒは底なしのバカだったが



彼女にとって底無しのバカになることが、その環境で生き残るための手段だったのかもしれない。






「泊る場所を確保するためにセックスってきつくない？」




「うーん…別に？私セックスがそもそも好きだし、泊まるとこが欲しかったから」





しかも驚くことに、お金を受け取る援助交際的なことは一切していない。




ただただ泊る場所を確保するためだけに身体を捧げていたと言うのである。






「お金をもらうと売春になって犯罪だから…」



やっぱりバカなのである。






「お前、今もまさか街で・・・？」




「うーん・・・



セフレがみんなダメな時はちょっとね」とＲは悪戯っぽく笑った。







話はそれで終わった。






この話を聞いたからって彼女を正しい道に更生してあげようなんて気持ちはサラサラなく



むしろ俺ができることなんて一つもないし、

一肌脱いであげる義理も無い…






とはいえ、とはいえですよ。




知ってしまっただけに何かＲに対して心をモヤモヤしたものを抱えながら一緒に仕事をこなしていった。






そして１年半ほどで番組は終了し、ほどなくアイドルグループも解散となった。







あれから8年が経過しすっかりアイドルグループやＲの存在は忘れていった。



厳密に言うとＲだけはどうしてるのかなぁとチラホラ時々思い出すことはあったのだが・・・






そして先日のことである。








天王寺の居酒屋でＲとバッタリと出会ったのである。



むこうが気付いて声をかけてくれた。



バカでかい声で名前を呼ばれてハグされた。





少しふっくらしてるが相変わらずの美貌のＲは３０歳になっていて


今はネイリストの資格を取得しサロンを開業するのを目標にしてるという。






三十路になったくせに話し方や内容は相変わらずバカのまま。




だけども環境に大きな変化はあった。



現在、付き合って２年目の「彼氏」と同棲をしていて、来月はその彼氏の両親と初めて会うそうだ。





まぁ幸せそうな顔だこと。




毎日帰る家があって、その家には愛してくれる人がいるってだけで、人間はこんなに表情が変わるもんなんだな。






俺にとっては残念さはあります。




実はもしかして「セックスしませんか？」って言ってくれるんじゃないかと期待していただけに。






だけども心は実に晴れやかになった夜であった。