イオンに行っていた。




催事場みたいなスペースで、地下アイドルが数組がイベントライブをしていた。






「まぁ、かわいらしいこと」



一組目のグループを見て俺はイベント会場を後にした。






すると後ろから





男の怒声に近い「うおー！！」っという叫びが聞こえた。







なんだ？テロか？



俺は慌てて催事場に戻ってみた。









叫び声の正体はアイドルの親衛隊であった。









俺と同世代のオッサンが声を絞り出し、鉢巻を付けた髪を振り乱して応援していた。


両手の人差し指を天高く突き上げ、身体をのけぞらせ左右に捻りながら踊り狂っている。









若い男ではない。



いい歳したオッサンである。








その異様な光景に周りの人たちは


オッサンを見ながら眉をひそめ、失笑していた。








俺はひたすら踊り狂うオッサンを見ながら





「同じオッサンとしてああは、なりたくないなぁ」と心から思ったのである。








アイドル達のライブは続く。






俺は気になってステージのアイドルではなくオッサンに目が行ってしまう。





オッサンのボルテージは最高潮に達しており激しさを増していた。






アイドルの一人の女の子がステージ中央の前に出てきてソロパートを歌いだした。





オッサンの声はさらに大きくなった。


前に出てきた彼女は、オッサンの推しメンであることはすぐにわかった。






オッサンは両膝を付いた状態でスライディングのようにステージの前まで素早く滑り出した



歌っている推しメン彼女の目の前で、ひざまづいたまま、まるで神に祈りを捧げるかのように両手を広げ天高く突き上げ

恍惚の表情で空を見上げた（映画プラトーンの有名なポーズみたく）






その光景を見た周りの客はﾄﾞっと笑った。







俺は不覚にもそのオッサンの姿を








「美しい・・・」



と思ってしまった。









「ああは、なりたくない」


っていつごろから思うようになったんんだろうか。





俺が子どもの頃になりたくなかった一番の大人は






今の俺なのかもしれない。








子ども心に何かに冷めてくたびれた大人よりも


何かに一生懸命で無我夢中に生きている大人にずっとなりたかったのである。








俺は最近、夢中になれることが何かあっただろうか？



最近、汗をかいただろうか。



最近、何かのために無我夢中で声を張り上げただろうか。



俺は誰かのために全身全霊で応援をしたことがあるだろうか。





ただただ純粋に一生懸命今を「生きている」オッサンの姿に俺は軽い嫉妬心さえ芽生えてしまった。







大人になると色んな物を得る代わりに色んな物を失う。





毎日ワクワクが止まらなくて胸がムズ痒くなってたあの頃からどれだけの心を失っただろうか。






ライブが終わり、オッサンはタオルで汗を拭きながら、白い歯をこぼしている。



充実した笑顔をしていた。



きっとこのオッサンは今も毎日ワクワクしてるはずである。





「こんなオッサンになりたいな」と心から思った。







２０１６年は俺は、かつてのワクワクを取り返す年にしたいと思う。





年齢は関係ない。




失った何かを少しづつでも取り返せるように色んなことにチャレンジしていくつもりだ。




ライブが終わるとステージの端で握手会がはじまった。




アイドルには興味はないが、オッサンが気になったので握手会の前まで見に行った。





オッサンは推しメンアイドルの手を両手でガシっと握ると




すごく真剣な真顔で






「ペロペロしていい？」って聞いた。




「や、やめてください」



引き攣ったアイドルの笑顔。






やっぱり「ああはなりたくない」と思った。