俺が小学校の頃の話である。




友人でＨ君というクラスメートがいた。




Ｈ君が自慢げに俺に語りかけてきた。






「俺の飼ってる亀めっちゃおもろいねんで！朝に勝手に散歩に出かけて夕方には帰ってくるねん」





Ｈ君の飼ってる亀は知ってる。





何度か彼の家に遊びに行って見たことがあるからだ。



かなり大きな石亀でＨ君は洗面器の中に入れて飼っていた。




大きな亀なのに、ほぼ同じくらいの大きさの洗面器に入れられてて、窮屈で可哀想やなとは思っていた。





その亀が散歩に出る？


そして帰ってくるだと？







Ｈ君が言うには、その亀が朝に勝手に自分で洗面器から出て、少し開けた玄関のドアの隙間から外に出て夕方になったら家に戻ってきて洗面の中に自ら入るという。






Ｈ君：「だから亀のために朝と夕方はドアを1/3くらい開けとかなあかんねん」






俺は鼻で笑った。




犬や猫じゃあるまいし亀が自ら散歩に行って戻ってくるなんてそんなバカな話があってたまるかである。






だけどもＨ君は真顔で嘘だとは全く認めない。





「散歩亀」の真偽を確かめるために当時のクラスメート数人で放課後にＨ君の家に行った。





玄関の下駄箱の前に置いてある洗面器を見た。






確かに亀がいない。





Ｈ君：「ほらな！」





何がほらな！である。





洗面器に亀がいないだけで亀が散歩に行ってる証明にならない。（実際に隠してると思っていた）




100歩譲って亀が脱走して外に出ることはあっても
また戻ってくるなん絶対にありえない話なのである。





「やっぱりお前は嘘やな！」とクラスメートとＨ君の家の前でＨ君に文句を言っていた。




Ｈ君はしょんぼり下を向いている。




すると隣の家のオバサンが植木に水をあげるために玄関から出てきてＨ君を見つけるなり










オバサン：「あ！Ｈ君、さっき亀が帰ってきてたけど、玄関閉まってたからまたどっか行ったで」





Ｈ君：「今日はオカンが玄関を開けとくん忘れてたみたいで・・・」





オバサン：「亀が残念そうにしょんぼりしてたでハハハ・・・」








・・・・・・






俺とクラスメートは目を見合わせ口をパクパクさせた。






散歩する亀。




どうやらＨ君の話は本当の話っぽい。






その後日、俺は見てないがその時にいたクラスメートの一人が実際に家に帰ってきたカメを目撃している。








当時は亀にそんな能力があったのかと思ったが、こないだテレビを見てると、毎年同じ時期に同じ場所に（民家の庭）現れる亀がいるらしい。








そういう能力を持っている生き物のようだ。







散歩に行って帰ってくる亀。




すごいのは飼ってる亀なのに飼い主のＨ君が一躍人気者になった。






しかし人気者になった数カ月後に、急にＨ君は遠方に引っ越しをすることになった。





Ｈ君は詳しい話はしなかったが、転校の理由は「お婆ちゃんの家で暮らすことになってん」と言っていた。




亀ももちろんお婆ちゃんの家に連れていくそうだ。







その後、Ｈ君が転校するちゃんとした理由が判明した。







Ｈ君のお母さん、


朝に家を出たっきり



帰ってこなくなったんだって。








亀は帰ってくるくせに



お母さんは帰ってこない。








噂によるとＨ君のお母さん、


パート先の店長の亀に夢中になったそうである。