どんなことも時と場合によるなと思った話である。






だいぶ古い話になる。








友人のヨシから「大阪の某所におもしろいキャバクラがある」と聞かされていたので、職場の仲間数人で行ってみることにしたのである。







中に入るとまぁまぁ広いフロアでお客さんもたくさんいる。






一見、繁盛している普通のキャバクラではあった。








違うと言えば―




キャバ嬢達がまぁー



見事にブサイクだらけなのである。







嬢達が登場してきたときは思わず狼狽えてしまうほどであった。






（面白いってのがブスばっかのキャバ嬢って話なら帰ってヨシを往復ビンタやな）








職場の仲間を連れてきただけに気になって仲間を見ると明らかに「ず～ん・・・」という文字が顔に書いてあった。









しかし、その１時間後、



俺たちは大爆笑で腹を抱えて転げ回っていた。







非常に面白い店なのである。




なぜこんなブスばかりの店が繁盛しているのか。


ブス達はブス達なりにちゃんと武器を持っていた。







ブス達は当時はまだ存在していなかった「あやまんjapan」のようなパフォーマンスで踊って歌ってもうハチャメチャだったのである。





これが美人なキャバ嬢なら逆に引いていた。





ブスだからこそ許せる下品なﾊﾟﾌｫｰﾏﾝｽに俺たちは全員ツボってしまったのである。






極めつけは一人の女が仲間の膝の上に乗るとスルスルとネクタイを外した。





そして、そのネクタイをタオルのように両端を持つと、そのまま股にネクタイを挟みこみ




「カッポレ！カッポレ！～」


と意味の分からない音頭を叫びながら前後にこするのである。（銭湯でおじいちゃんがやってそうな行為）







白目を剥きながらパンツ丸出しで「カッポレ、カッポレ」とネクタイを股間にこすり付けるブスのその動きは





もはや人間というより妖怪のそれであり俺はソファーから転げ落ちて腹を抱えて笑った。








次の日に会社でそのキャバクラに一緒に行った仲間と「昨日は楽しかったなー」なんて話で盛り上がっていると




大先輩のＹさんが「何？どうしたの？」と近づいてきた。






Ｙさんは自分の親の年齢に近い大ベテランの先輩であった。









Ｙさんはゴルフ番組やスポーツ中継を担当していた凄腕の技術畑の人だが



年齢的に定年近くなり現場には出ずに主に内勤の仕事をしていた。




罵声どころか拳や足が飛んでくる業界においてＹさんが怒っているのを俺は見たことがないほど温厚な人である。





その温厚な性格から我々は「仏のＹさん」と呼んでいた。




そのＹさんにとって喜ばしい出来事があった。




溺愛していた一人息子が一流企業に採用されることになったのである。






そういうこともあって今まで以上にニコニコした仏顔で俺たちの雑談を聞きにきたのである。





Ｙさん「キャバクラか！そんな面白いところなら連れてってくれ」




俺「じゃあ週末に一緒に行きます？」




Ｙさん「行く、行く」





―っということになった。









例によってブス嬢によるパフォーマンスが始まる。



俺たちはゲラゲラ笑う。





仏のＹさんも楽しそうにニコニコしている。







そして一人のキャバ嬢がＹさんの膝の上に座るとＹさんのネクタイを外しだした。




何事かと狼狽えるＹさん。




知ってる俺は大喜びである。



「待ってましたーー！！カッポレーー！！」




びっくりさせようと思って、このパフォーマンスはあえてＹさんに話さなかったのである。







カッポレ！カッポレ！！～






勝手知ったる俺も嬢にまじってカッポレ！カッポレ！！と叫ぶ。






例によって白目を剥いた嬢がパンツ丸出しで股間にネクタイをこすり付けカッポレ音頭を始めた。







あ！それカッポレ～、カッポレ～！！






あ！それカッポレ～、カッポレ～！！






隣の客も覗き込んで大爆笑




笑い声がうずまくフロアの中、俺もヤンヤと大爆笑しながらＹさんの顔をチラリと見た。




















Ｙさん、






全然笑っていなかった。


















そしてフロア中に響き渡るＹさんの怒声で





「おどれコラぁ！ワシのネクタイに何をさらすんじゃーーーい！！」





めちゃめちゃ怒っている。



俺はＹさんが怒っているのを初めて見たのである。









「おい！おい！おどれ！！！ネクタイに何さらすんじゃーおー！？」





あまりの剣幕に客も嬢も声を失っていた。





シーンと静まりかえったフロアでネクタイを股間にこすり付けるシュッシュって音だけが聞こえていたのである。








Ｙさんは嬢からネクタイを奪うと、結局、怒ってそのまま帰ってしまった。







チーンとテンションの下がった嬢は




ただのブスだった。









後日聞いた話によると






あのネクタイは息子の初給料の記念で贈ってもらった品物だったという噂を聞いた。







確かに息子に初めて買ってもらったネクタイをカッポレされると気分は悪くなるのだろう。







ただ俺が謝りに行くのも何か筋が違う気がしたのでＹさんとはその件で疎遠になったまま定年で会社を去っていった。



そしてカッポレキャバクラも今は潰れて存在しない。

（芸を継承した店はあると風の噂で聞いたが真相は不明である・・）






どんなことも時と場合によるなーとつくづく思った話である。