天満の呑み屋でバッタリＨさん（46歳）に出会った。




久しぶりの再会である。






Ｈさんはうちの会社と付き合いのある元広告代理店の営業課長で一時期、頻繁に仕事をしてよく一緒に飲んだ人である。





ものすごく奥さん想いのいい人間で休日はいつも家族を連れ添ってた。



それでいて仕事も優秀な人で小さな広告代理店に勤めていたが、大手広告代理店も舌を巻くほどの凄腕営業マンだったという話を聞いた。






それほど優秀な人だったので数年前にヘッドハンティングされ今は部長待遇で中堅印刷会社で働くことになったＨさん。








実は数年前にその新しい会社に転職したばかりの頃に一度Ｈさんとは一緒に飲んでいる。





その頃、久しぶりに見たＨさんはゲッソリと痩せ細っていた。






「聞いてくれよ、りょうまちゃん…もう仕事が大変でさぁ」







あれほど優秀だったＨさんも新しい環境で仕事をするのは大変なんだろうなと思った。






しかし話を聞くと仕事は仕事でもＨさんの仕事はとんでもない仕事を任されていたのだ。







比較的社内規則の緩い会社で女性への福利厚生もしっかりしてて、女性が結婚しても長く働ける。


環境としては素晴らしい会社であった。






男女比率もほぼ同じ。





しかしその環境がゆえにある問題を抱えていた。






それは「社内不倫」の蔓延化であった。



緩すぎる社内規制のせいである・・・





とりわけＨさんが部長として入った部署は「社内不倫天国」といえる部署で社内不倫率が６割強








「あちらこちらの社員が社内不倫しててさぁ！もう大変ったらねえよ！」





初めて慰安旅行に参加した時に、その異様な光景を目撃したＨさん。






「普通、慰安旅行で大広間で宴会とかなると男女で分かれて座ったりするじゃない？


それが不倫カップル達が隣同士になっててイチャイチャしてて異様な光景だったわ」





Ｈさんの部署でも６割ほど社内不倫をしていたのでそれはえぐい光景だったそうだ。








不倫相手をめぐって社員同士のトラブルなんてのも日常茶飯事で、１人の既婚女性社員をめぐって中年営業マンと若い制作の人が「穴兄弟」同士で殴り合いの喧嘩になったり




女性同士も牽制をし合って派閥ができ空気が非常に悪くもはや業務に支障をきたすほどになっていたという。







極めつけの事件が起こった。




不倫された妻が会社に乗り込んできて

「お前らの社員教育はどうなってんねん！！」と大暴れしそれが傷害事件に発展した。




さすがに何とかしなくてはならない。



「社内風紀を是正せよ」



遅すぎる組織方針である。







つまりＨさんは社内で蔓延している不倫の処理を一任されたというのだ。






ゲッソリ痩せ細ったＨさん。







社内の聞き込み調査から開始し、社内不倫をしている人間をすべて割り出し、不倫を止めさせる、拒否するものには何らかの懲罰を与える。





聞き込みも反吐の出そうなドロドロとした人間関係をさんざん目の当たりにし


人間不信になりそうだ・・・


とＨさんは虚ろな目でつぶやいた。






それから数年間、Ｈさんとは会っていなくて



偶然、天満の飲み屋で再会したのであった。






その頃からだいぶふっくらとして表情の明るいＨさん。






「その後、不倫天国はどうなったの？」








「あー！やっと落ち着いて平穏な社内環境になったね








もう不倫した奴を片っ端からクビにしたよ（笑）」







Ｈさん、かなり剛腕をふるったらしい。




会社では不倫どころか独身同士の社内恋愛でさえ罰則を設けるほどに変貌した。



「俺が決めた社内ルールなんだよ！」


自慢げに言ってたが、社内恋愛禁止はやりすぎちゃうかと？正直思ったがそこまでＨさんも追い詰められてたんだろう。






明るい笑顔を取り戻したＨさんと、その後も世間話でもり上がっていたら





「Ｈ部長、お待たせしました」





そこに現れたのは２０代後半と思われる髪の長い美女。




Ｈさんはこの女性と飲むためにこの店にやってきたのだ。






「りょうまちゃん、紹介しとくわ！この女性はウチの会社の営業でさぁ超優秀な子でね・・・」



「やめてくださいよ部長～」









俺レベルになってくると隣り合う男女を見るだけで









すでにセックスしてるかどうかわかる能力を身に付けている。











（おい、お前らもうヤッてるやろ？）









４人掛けのテーブルで俺の前で並んでイチャイチャするＨさんと美女。

彼女の指にはしっかり結婚指輪がはめてあった。





「じゃあまたね、りょうまちゃん！また一緒に仕事をしようよ」



Ｈさんと美女は駅と反対方向に消えて行った。





次に会う時、Ｈさんは大丈夫だろうか？



ミイラ取りがミイラになる日は近いかもしれない。