売れっ子お笑い芸人を目指した友人の末路とは?[ぴかぴか(新しい)]
40代前半  大阪府
2017/03/22 3:42
売れっ子お笑い芸人を目指した友人の末路とは?[ぴかぴか(新しい)]



俺の中学からの友人であるO君は元ピン芸人である。





吉本のNSCを出てから10年以上、売れない芸人をしていた。





以前、古舘伊知郎が言ってたと思うのだが、売れるテレビタレントの条件は、何かふられて3秒で面白い返しができるかどうかであると。





ある意味正しい。





芸人さんとは仕事を一緒にさせてもらう機会は多いがその頭の回転速度たるや度肝を抜かれる。





特に生放送ではそのすごさは顕著に表れる。CM前の「あと5秒で落とせ」というカンペの無茶ぶりも難なくクリアする化け物ばかり。



その鮮やかさは鳥肌が立つほどである。






一方、元芸人のO君は決定的に頭の回転が遅い。




普通の会話でさえなかなか成り立たない。





そして芸人としては絶望的に話が下手で、「ウンコをしたらティッシュペーパーが無くて靴下で拭いた」というエピソードを30分くらいかけて話す。





O君が京都の小さい市民ホールの会議室で開いた単独ライブの観客は俺も含めて8人だった。


全部知人だった。






頭の回転が遅い、トークが下手。




彼の芸は、芸と呼んでいい代物かどうかわからないシュール系のものだった。





肘やら、膝やらを舞台や壁におもいっきりぶつけて
「膝痛い~!!」「肘痛い~!!」と転げ回り大声で絶叫するだけのネタ。





何がおもしろいのかさっぱりわからない。







当然会場はくすりともならずシーンと静まりかえる。




今まで生きてきてこんなに盛大にスベった奴は見たことがない。




逆に俺が恥ずかしくなって顔がかーっと真っ赤になってしまった。





ところが「俺はスベリ芸やからな!」とO君はご満悦だった。(すべてのスベリ芸に謝れ!!






そんなO君とはしょっちゅう酒を飲んだ。





酔っぱらいながら朝まで俺の夢の話、O君の夢の話、お互いの将来の話をした。




ものすごい青臭かった当時のことは鮮烈に覚えている。






O君の夢は「なんばグランド花月」でお客さんの爆笑をとること。







「俺がおもんないのは知ってるけど俺は人を笑わせんの好きやし、お笑いを頑張りたいねん」






夜はコンビニでアルバイトしながら10年以上、彼は彼なりの芸(?)をみがいた。





O君は最後に酔っぱらうと俺に愚痴を言う



「○○(同期の売れっ子芸人)と俺はおもろいか、おもんないかだけで何でこんな人生ちがうねん!」



芸人なのだからおもろいか、おもんないかが大事なのだが俺は黙って話を聞いてあげていた。






無我夢中で夢を追いかけていたO君。








そんな芸人O君の夢は突如として終わりを迎えた。





「俺、引退することにしてん」




「どうした?なんでや?」





膝十字靱帯損傷。






膝をぶつけすぎて膝の靱帯が限界を迎えていたのである。









お笑い芸人を目指してたはずなのに、



なぜ格闘家の引退みたいな理由で辞めるのか。








「もう「膝、痛い~!」でけへんから辞めるねん」



彼、唯一の持ちネタである。






初めはニコニコ笑いながら引退報告をしていたO君だった。





しかし、話してる間に、だんだんその眼から大粒の涙がつぎつぎこぼれ、遂にテーブルにふせって大声で泣き始めた。






膝の限界が引退の理由とは言ってたが、たぶんそうではなかったと思う。






10年以上頑張ってきたがまったく芽が出なかった。






膝以上に自分の才能の限界を感じてしまったのだ。






またコンビニのバイト先で出会った彼女と結婚も意識するようになった。



そのコンビニから「店長」という話もあった。






彼は膝の怪我をきっかけにすることで引退すると自分に納得させ決意したのである。





「アホやな、お前は。ほんまにアホやな。」



鼻水も垂らして子どものように泣きじゃくるO君を見ながら、俺も涙が止まらなくなっていた。







あれから10年。





O君は今、コンビニのオーナーとして名古屋で生活をしている。(1Fがコンビニで2階が住居という素晴らしい環境)




先週、名古屋で仕事があったから夜にO君の家に遊びに行った。





今では当時のコンビニの彼女と結婚し子どもが3人もいるパパである。





O君は今でも「売れたかった!」「悔しい!!」と言っている。




リビングのテーブルの上に肘をぶつけて「膝痛い~」と叫ぶと、子ども達3人が大爆笑をするのだ。





O君のギャグに腹を抱えて笑う子どもたち。


不覚にも俺もつられて笑ってしまった。







夢破れたO君。




いや夢が叶ったO君。





O君のどんなギャグでも大笑いしてくれるこの世で一番大事なお客様が3人もいるんだから。





なんばグランド花月で笑いとるよりいいんちゃうか?



子どもに笑ってもらってるO君の幸せそうな笑顔がそう語っているのであった。





「ところでりょうま、お前の夢はどうなったん?」





俺の夢は、あの頃の青臭いままである。



ずーっと追いかけている。





今はさすがに色んなしがらみの中で生きていかなくちゃいけないだけに猪突猛進というわけにはいかないけど



今築いている社会の中で俺という役割をちゃんと発揮しながら、俺は死ぬまで夢を追いかけて行くつもりなのである。





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