大阪ストーカー殺人、防げなかった想定超えの“狂気”…伝わらない「前科」
「殺される前に警察に電話してや」
ストーカーにそう脅された飲食店員の女性は、事実その通り、警察に相談した
そして2カ月後、路上で刺殺された。逮捕されたのは店の常連客だった松本容疑者
過去には元妻へのDV(ドメスティックバイオレンス)で逮捕歴もある
大阪府警は当初から危険度の高いケースとみて「とるべき措置はとった」
それでも事件を防ぐことはできなかった
一方的な好意はいつしか憎悪に、殺意に転じていた
その胸の内の“狂気”を見極めるすべはなかったのか
■警察へ「電話やメールしたらどうなるんですか」
「アルバイト先で知り合った客から、しつこく電話やメールが送られてくる」
大阪府松原市の井村由美さん(38)が松原署に相談を持ちかけたのは3月2日のことだ
その前日、松本容疑者から「殺される前に-」というメールが来た
松原署は殺害をほのめかす文言を重視した
そのため、刑事告訴と自宅からの一時避難を勧めたが、井村さんは「家族がいるから1人で避難はできません」と答え、ひとまずは口頭注意を希望した
2日午後4時半、松原署はストーカー規制法に基づく口頭注意を行う
それでも松本容疑者のメールは止まない
その内容は警察の介入に対する動揺をうかがわせた
「いらん報告やけど、昨日飲んで帰り道、階段で足首をねんざして歩くと痛いねん。それとタバコ始めた。由美と同じタバコやで」(午後4時38分)
「このメールも警察に見せて逮捕でもしてもらえ」(同5時5分)
松原署にも自ら電話をかける
松本容疑者「確認したいんやけど、電話やメールしたらどうなるんですか」
担当者「告訴があればストーカー規制法違反として対応する」(同5時10分ごろ)
さらに井村さんへメール送信
「どうも納得できへん。明日松原警察にいって話を聞いてもらうわ」(同8時6分)
再度、松原署に電話
松本容疑者「やっぱり納得いかん。明日、俺の話を聞いてほしいから出頭します。あと『警察に行く』って由美にメールを打ってしまった」
担当者「メールしたらだめだと言っただろう。それなら明日来い」(同8時20分ごろ)
またもメール。
「今松原警察の担当に電話して明日の約束したで」(同8時32分)
この日以降、井村さんへの連絡はなくなった
後日、松原署から文書警告を受けた松本容疑者はこう言い切った「もうあいつに関わる気はないって」
■潜伏そして…見つけた自転車
だが、松本容疑者の言葉はその場しのぎの嘘に過ぎなかった
4月に入ると、井村さんの所在を探し始める
客として通っていた大阪市平野区のスナック周辺をうろつき、井村さんの自転車が止まっていないか、何度もチェックした
松原署は3月の時点で、井村さんにスナックを移るよう要請
井村さんも受け入れ、当時は別の店で働いていた。松本容疑者と出くわすことはなかった
「もう何もないです。ありがとうございます」
4月2日、松原署の安全確認の電話に、井村さんはこんな返答をしている
被害は沈静化したかに見えた
4月下旬には、もとのスナックに復帰。通勤の足は前と同じだった
松本容疑者はついに見る
見たくて仕方なかった自転車を-
5月2日午前2時20分、井村さんの帰宅ルートで待ち伏せ、襲撃する
「警察行くから!」
「助けて!」
逃げまどう井村さんを歩道沿いの植え込みに追い込み、包丁を突き刺した
松本容疑者は逮捕後の調べに「このまま会えないのならば、殺してあの世で一緒に暮らしたいと思った」と供述した
■伝わらない前科
松本容疑者は約2年前に妻と離婚していた
昨年には元妻に暴力を振るったとして逮捕され、執行猶予付きの有罪判決を言い渡されている
その後、DV防止法に基づき、元妻への接近を禁止する保護命令も受けた
女性への暴力、付きまとい…。そういう意味では“いわくつき”の男だったと言っていい
府警はDV加害者やストーカーの情報を本部で集約している
所轄署からの報告に該当者がいれば、すぐにフィードバックする仕組みだ
松本容疑者の前科についても、相談のあった時点で把握している
だが、その情報が井村さんに伝えられることはなかった
前科・前歴の類いは個人情報中の個人情報といえる
たとえ報道機関への発表であっても、捜査機関が容疑者の前科を明かすことは原則として、ない
府警に寄せられた昨年の相談件数はストーカー被害で1720件、DVで5844件に及ぶ
「相談のたびに前科の有無を開示するというのは、プライバシーの観点からも物量的にも、現実的ではない」(府警幹部)
とはいえ、遺族感情からすれば納得できないのも当然だ
井村さんの夫は「これは連続的な犯罪
なぜ警察は防ぐことができなかったのか」と府警の対応を厳しく批判している
■不完全な現実
大阪では今回の事件の約1週間前にも、スナック経営の女性(41)が殺害される事件があった
常連だった70代男性に付きまとわれ、悩んでいたという
この男性は事件翌日、工事現場で首をつって死亡しているのが見つかった
府内で別のスナックを営む50代女性は「多少付きまといがあってもお客さんなので邪険にはできない。きっぱりと拒絶できないでいるうちに、深刻な事態になっていく」と、距離感をはかる難しさを吐露した
被害者はストーカーを恐れ、警察に相談した
警察も状況を軽視せず、介入した
だが、過去のストーカー殺人を教訓に、警察が練り上げた現行のシステムでも防げない事件が起きた
一つ言えるのは、ストーカーへの対抗策が、いまだ不完全ということだ
女性の皆さんは気をつけてください(^з^)-☆