父のブルーマウンテン｜ワクワクメール

父のブルーマウンテン

その店は
父が生前大好きだった。
いつも

頼むのはブルーマウンテン。

もうバカのひとつ覚えみたいにそれしか頼まない。

仕事と子育てに追われゆっくりする時間もなかなかなくて
午前中。時間を作って
出かけた。
珈琲たいむは
人の心も癒してくれる。

ドアを開けると
懐かしさが、こみあげてきた。

違っているのは

そこに父の笑顔がないこと。

「おぼえてますか」
そこから昔話で盛り上がると思ってた。
ところが
「覚えてますよ！馬鹿じゃないんだから！」
言い方は穏やかではなく空気が凍りついた。
父との思い出が一瞬で消えた。
店主はもう80歳近く。高齢だからと馬鹿にされたと思ったのだろうか。
私は、そんなこと思いもしなかったのに。

カウンターで
昔話に花を咲かせたかっただけなのに。

ブルーマウンテンの味は苦かった。

私が二十歳くらいの頃、父がいれるブルーマウンテンは
美味しかったのにな。