その日の夜は
誕生日なのに
私は女より母親を優先した｡ﾂｲﾝでﾎﾃﾙをとり､食事のあと私は女になった｡
｢やっぱり､でかいね｣
私の胸に顔をうずめながらいう｡

｢誰とくらべてんのよ｡いまさら｣
怖くて言えずに言葉を飲み込んだ｡
普通なら 久しぶりに再会した恋人同志だもの､私を帰すはずがない｡
私は彼が強引だったらなんとかできた｡
｢子供が待ってるからなあ｣そう言われると
ますます一緒にいたくなる｡
怪しいことだらけ｡

わかった女のふりをした｡私は彼女｡
なんてったって歴史がある｡私は自信があった｡
…そう思いたかったのが本音｡
こういうときに問いただしたら､いけない､彼を信じよう｡

翌朝､子供を送り出すと
彼の大好きな｢ｷﾝｸﾞﾁｮｺ｣をｺﾝﾋﾞﾆで買い､まだ寝ている彼を
｢いる？｣
とｷﾝｸﾞﾁｮｺをぬいぐるみを操るように動かした｡

彼は寝起きにも関わらず､嬉しそうな顔をしてｷﾝｸﾞﾁｮｺをほうばった｡
｢あのねぇ､もしかしたら私よりｷﾝｸﾞﾁｮｺ待ってた？｣

｢おまえ､最高！｣
口の周りをﾁｮｺだらけにして言う彼がいとおしかった｡


彼のおばあちゃんの墓参りに行き
車の中で
いつものようにおどけてではなく
｢おまえといると楽しい｡安らぐんだよな｡ﾎｯとする｡｣

彼が私と目を合わさず静かに言った｡

｢私とは小金太らｰめんが食べられるしね｣


空気が読めてるのに､話をそらす｡

｢ごめん｡むこうでつきあってるひとがいる｣

私は覚悟はしていたのに
大人の女を演じようと思ってたのに
言葉は見つからず､身動きできなかった｡

｢４月におまえの夢をみて､声が聞きたくなって電話したのに､話せなくて､そんな時だよ｡一回きりにしようと思った｡｣

ｾﾌﾚと呼ばれる男性と既婚者の女性が一晩うちをあけ､ご主人にﾊﾞﾚて暴力をうけ､ｾﾌﾚも逃げて､独身の彼に泣きついた｡
ほうっておけなかった

そんなの､ありえなさすぎ､なんで子供が小さいのに家をあけるの？旦那にﾊﾞﾚるの承知でやってる｡三股ってやつ？彼は利用されてるだけじゃん｡


私は彼の告白を黙って聞いた｡


｢どうするの？｣

たった一言｡
これは私の一発で仕留めるくらいの一言をはなった｡

｢おまえとやり直す｡彼女と別れる｣


９月に私は仕事で東京に行く｡その日は彼の誕生日と重なった｡
初めての彼との約束｡


それからの４ヶ月､毎日のように電話で話し､楽しかった｡
会えない気持ちが愛育てるのさ♪
まさに実感していた｡

そして
９月｡
彼の仕事は､ｼﾌﾄ以外の休みがとれず､その日に休むのは無理だからと
鹿児島の姉が父が倒れたということで会社に電話するというﾐｯｼｮﾝがあった｡
子供じみた小細工だったのかもしれないが､携帯でなく会社の固定にかける｡
私がそういうのが得意だと彼は誰よりも知っていた｡

｢任務完了｣
得意のﾃﾝﾌﾟﾚｰﾄをｽｲﾝｸﾞさせて送信した｡


午後２時
彼からのﾒｰﾙ着信音｡



｢うまくいった明日楽しみにしてるから｣
そういう文面を期待して

ﾒｰﾙを開いた｡












｢ごめん｡明日はいけない｡おまえに土下座して謝りたい｡彼女と別れられない｡申し訳ない｡｣




頭のなかが真っ白になり
息ができなかった｡








｢待ってるから…｣




絵文字のないﾒｰﾙがすごく孤独だった｡




彼から着信があったのは
日付がかわり
午前２時｡







｢おまえと逢いたい｡｣








つづく