こんな私も
一度だけ一人暮らしをしていたころがあった。
２３歳。
とっても旬なお年頃。

ミラクル方向音痴で
自分のアパートになんとか帰れる毎日で
それでも
鹿児島から東京に出れたということが満足だった。
決まった道の往復しかできないくらい、
方向感覚がマヒしていた。



その日は
私の歓迎会で
居酒屋に行き、帰りは１０時が過ぎてしまった。
いつもは地下鉄を利用していたのに
居酒屋に寄ったことで山手線を利用することになった。
どっちも
アパートまでの距離は変わらない。

ただ、
いつもと違うのは
帰宅時間が遅いので
商店街が、ほとんどシャッターが降りて、ひっそりとしていた。
商店街はまだいい。
一本道だし、灯りだってある。
商店街を抜けると
街灯もない路地を通過しなければならない。
もしかしたら、他にも道があるのかもしれないけど
私の頭では全く応用がきかなかったから
知ってる道を行くしかなかった。


街灯のない道。
一人。
もう、それだけで
『怖い』
という言葉がリフレインしていた。


急ぎ足で
家路を急ぐ。



背後に人影を感じる。



気のせい？



私が止まると
足音も止まる。



泣きそうなくらい怖い。






その時、
こんなこともあろうかと
防犯ベルを持ってたことを思い出した。
暗やみのなかで
バックを探す。
かなり、焦っているので
なかなかみつからなくて
私はどんどんパニックになる。


やっと
ソレらしき形を探り当てた頃、足音が消えた。


そして
後ろから肩を捕まれた。





きゃーっ




乙女のピンチ！！







一気に
ベルを引き抜き
非常事態を脱出。


ベルの音に驚いた野良犬がキャン、キャン吠えながら逃げていく。
足音だけの男も逃げた。



ホッと胸を撫で下ろして、ベルを止めようとしたが
けたたましく鳴り続けるだけでなかなか止まらない。防犯ベル、使ったことないから、止め方が解らない。
必死でなんとか止めようとするけど
パニくってるので
なおさら無理。
地面に叩きつけたり
足で踏んだり
いろんなことをして、阻止する。


引き抜いたのを戻すことを思いついた時には
ベルはボロボロで
入り口も変形していて
収納不可能(泣)…



二度と
使えなくなった防犯ベルは私を助けてくれたのに
私の手で見事に破壊。


ふーっ
とため息をついて
さっさと帰ろうと
立ち上がった。



あれっ？




逃げ惑いながら
いつの間にか、
見たことのない路地のなかにいた。

まるで迷路…
(私にとってはそう感じた)

一難さってまた一難とは、こういうことか…
なんとか記憶を回転させて、迷いながらも見覚えのある道にたどりつく。





いま思えば
防犯ベル、最初で最後だったような気がする。


破壊してごめんよ～。