我が息子20歳。

我が父77歳。
父は頑固で九州男児そのもの。
若い頃はすぐに手が出るそんな怖い父だった。

いまは、がん患者で
すっかりやせ細り、昔みたいな怖さはなくなって
父の身体の気遣いなるべく怒らせないようにしている。
息子が小さい時には
たたかれたこともある。



いまでも負けないと
口だけは達者な父だけど
誰よりも弱くなっていく自分の力を父がいちばんわかっていた。



高校生になり、登校拒否
高校中退した息子は
仕事もなかなか長続きしなくて
それでも素直なだけが取り柄だった。



私に経済力がないから
息子が18歳になっても自動車免許を
とらせてあげられなくて。

父も
そのことを気にしてたのを私は知ってたから。

男の子だもの。


息子は、
５月、自分の働いたお金で自動車免許を取得した。

父は

涙を流し喜び

良かったねと何度もつぶやいた。


自動車免許は親がお金をだすのがあたりまえ

そんな若者がほとんど。

親がだせなきゃ自分でだすしかない。
親としては情けないけど
そうやって取得した運転免許は
私にとっても宝物。




そんな息子に
父が



昔、ほしくてほしくてたまらなかった時計を
取り寄せたと

息子に時計をさしだした。



好みだって違うし
若い息子が使ってくれるかどうかもわからない。



息子に
前もって
気に入らなくても喜びなさいと
私はいいきかせておいた。


思ったとおり、

息子の喜ぶ姿を涙ぐんで見ていた父。


最近父怒らなくなった。
というより怒る体力がなくなった。
そして、涙もろくなり
すぐに
つかれるようになった。



最初で最期になるかもしれない
父から息子へのプレゼントだ。



「じーちゃんのセンスいいよ」



直接父に言えばいいのに、わたしに照れくさそうに言う息子。



「大事にしなさいよ。もしかしたら、形見になるかもしれないんだから」

私は息子にそう告げた。




「今度ゆっくり、運転ののうはうを教えなきゃなあ」
と父。


「車高の教官みたいじゃん」
と息子。


「バカ！絶対おまえの運転する車には乗らん。ヒヤヒヤして寿命が縮む」



そういって
父は大声で笑った。



いつまでも
時計が秒をきざむようにこの刻がつづくますように。