体験した不思議な話し「いつまでも④」
二人は別段クラスの中でも目立つグループ(といってもほとんど二人だった)ではなかったし、それほどスポーツが好きなわけでもなかったのでどちらかといえば図書室に遊びに来ることが多かった。
先生は若くて美人だったし、漫画もおいてあるし本を読むのはキライではなかったからだ。
二人は意気揚々と図書室に向かったがあいにくカギが閉まっていた。
仕方なく用務員室に行き、カギを開けてもらうことにした。
「すみませーん。」
用務員室の扉を開けるとオジサンがなにやら調べ物をしている最中だった。
「あの・・・。」
おそるおそる俺はオジサンに声をかける。
「ん・・・?おお、気づかなかったよ。いやぁ、何だか懐かしくなってねぇ、卒業アルバムを見ていた所だ。君の卒業した、○○年卒業のやつだ。」
どうやら学校は卒業アルバムは取ってあったようでオジサンは懐かしそうに眺めていた。
「へぇ・・・!俺もまだ持ってますよ。6年3組が俺のクラスでした。当時の先生方でまだいらっしゃる先生はさすがにいらっしゃらないですよね?」
あまりに懐かしそうに、ニコニコと眺めているオジサンに、思わず声をかけてしまった。
「そうだねぇ・・・強いて言えば私くらいのもんかな。」
用務員のオジサンは胸を張り、誇らしげに語った。
「そうなんですか・・・やっぱり先生方も転校していっちゃったんですね。」
この学校で知っている人はもうこのオジサンだけなんだと思い知らされてしまった。
「まぁそんなに悲しまなくてもいいさ。先生方も君たちもいろんな場所へ行き、いろんな人と出会う。いつかつながりの輪っかが一周することだってあるんだ。」
「はぁ・・・。」
「ここの卒業生だって子が今や学校の先生になってこの学校へ来たりもするんだよ。うれしいじゃないか。」
「・・・なるほど。つながり。ですか。」
「そうさ。それに君のように卒業してから何年も経つのにこうして来てくれたりするとね、やっぱり嬉しいものさ」
なんだか無性に照れくさくなってきた。そこにやっぱり小さくなっていた太郎が声をかける。
「おいたけ・・・。そろそろ・・・」
なるべく見つからないように恐る恐る声をかけてくる。過去に何かしたとでもいうのだろうか。
「あぁ・・・そうだ。すみません。図書室に入らせていただきたいんですが。」
図書室か・・・本当なら大事な本もあるしダメなんだけどなんか人が良さそうだからとカギを開けてくれた。しばらくして出る時にはカギをかけてきてくれとオジサンはカギを置いていった。
「・・・不用心にもほどがあるだろ・・・」
俺はあきれ顔でカギを見つめながら言った。
「ほんと、あのオジサンのが人がいいよな。」
「お前はほんと内弁慶だなぁ・・・」
俺はオジサンがいなくなってまた調子を出している太郎に言った。
太郎はケケケ・・・と目を細めている。
二人の思い出の場所、図書室。
大きな声で本のタイトルを読んでは怒られ、本を枕に寝ては怒られ、本に落書きをしては怒られた図書室。
・・・なんかろくな思い出がないな。
「さて・・・お前も覚えてるんだろ?図書室って言ったからには。」
「もちろん。何の本かは忘れたけど。」
お互い、図書室にきたのは単によく遊んだからではない。ここにあるものを隠してあったのだ。
「何かの本に挟んだんだよな。」
「そう。何かの。」
二人は笑いあった。何かの本。までは完全に忘れてしまっている。もしかしたらすでにその本はないのかもしれないが。
「確か・・・貸出禁止のやつだったよな?」
わずかな記憶を頼りに思い出す。何せ小学校の図書室と言ってもかなりの数の本がある。ある程度目星をつけるべきだろう。
「あぁ・・・そうそう。貸出禁止で分厚そうなやつだったらそう簡単に入れ替えたり、誰かが見たりしないだろうって思ったんだよな。」
そう言いながら太郎は分厚い辞典のようなものを開く。挿絵も少ないこんな本、小学生だと中々手に取る勇者は現れないだろう。
それから二人は黙々と分厚い、貸出禁止のシールが貼られた本を手に取り開いていく。
・・・どの位本を手に取ったろうか。
やがてこの作業に終わりが告げられた。
「あった・・・。」