体験した不思議な話し「いつまでも⑥」
「なんかドキドキするな・・・とりあえずこの辺掘ってみようぜ。まだあんのかな・・・。」
俺はスコップ片手にめぼしい所を掘り出した。
懐かしいとはいえ、20歳を目前にした大学生がいったい何してるんだか。
埋めた場所も埋めた物も忘れてしまっていたがでもなんだかどうしても掘り出さなくではいけない気持ちになり慎重に掘った。
これを埋めていた時、あの時俺はどんな気持ちだっただろうか?
転校が決まり、別れが分かった上で埋めていた。
転校の件はたしかギリギリまで話さなかったけどあの時太郎は知っていたんだっけ?
カツン・・・
スコップに手応えがあった。
懐かしさを感じさせる青いクッキーの缶。
砂が入らないようにか、簡単には開かないようにかフタはガムテープでグルグルまきにしてあった。
「あった・・・。」
感動で胸が震える。たった7年前のことなんだけど2人にとって特別な物であった。
はやる気持ちを抑えながら丁寧にガムテープを剥がしていく。
ガムテープを剥がし終え、ゆっくりとフタを開けてみる。
中には当時人気だったドラゴンボールや幽遊白書といったカードダス、ファミコンのマリオ、小さいガンプラ、そして、手紙。
手紙には20歳を迎えるんであろう自分・・・ではなく相手に向けて書いていた。
自分に向けてはクラスのタイムカプセルに書いたから・・・だったんだと思う。
「ん・・・?」
俺はあれ?と思い缶の中を探してみる。
「おかしいな・・・?」
手紙が1通しか無い。
「あれ・・・?俺が書いたのがない・・・?」
手紙には子どもの字とは思えないしっかりした文字で『たけへ』と書かれてあった。
「これ・・・?」
俺はガサガサと手紙を広げた。
『たけへ
よう!
約束通りこの手紙を19歳のお前が読んでくれているのだと思って書いているよ。
まさかそれより早く読んでないよな?それとももっとおっさんになったか?
・・・それでも読んでくれているのだと思っている。
学校に久しぶりに来てどうだ?
懐かしかったろ?ふざけあった教室も走り回った運動場も。
体育館が新しくなってたろ?天井のボール、どうなったんだろうな。
隠し場所はすぐに分かったか?ここをすぐに分かったんだったらスゲーな。
図書館に行ってヒント取ったか?』
字は高校生だろうか、もっと大人だろうか。濃ゆくしっかりとした文字はまっすぐ俺に向かって語りかけるようだった。
俺は黙って読み進めた。
『悪いがお前からの手紙先にもらっていくよ。心配すんな。約束の時まで読まないように頑張るからよ。
掘り出せなくなる前に・・・と思って先に学校に行くとする。』
――ああ、そうか。
『それにしてもお前黙って引っ越すんだもんな。せめてどこに行くかくらい教えとけ・・・
・・・あぁ、まぁ気持ちはわかるけどな。そんな事言ったらもう会えなくなるなんて思ったろ?
じゃあな。よりも またな。の方が好きだからな。
俺もお前に言ってなかったし。』
――そうだよ。いつでも会えるって思ってた。
『察したと思うんだがあと1年なんだってよ。俺。
これでも頑張ったんだぜ?なんか長ったらしい病名で覚えられないよ。
19歳になるころはギリギリいないんだと思う。』
文字の筆圧がここから他に比べて明らかに強くなっている。きっと歯を食いしばり、認めたくない現実と闘っていたのだろう。
『くやしいよな・・・。20歳はダメでもよ、19のお前との再会も許してくれないんだと。
だけどよ、あんまし悔しいからこうして先に再会させてもらったぜ。』
太郎ケケケ・・・とはにかみながら笑う姿を想像して思わず笑ってしまった。
『お前とは小学校の短い間の付き合いだ。だけどよ、学校忍び込んだり山に冒険行ったり、濃ゆい事を沢山したよな。俺に取っては忘れられない一生の宝だ。』
――やめろよ。照れくさい。
『短い時間にギュッと詰め込んだ思い出だ。忘れねぇよ。ありがとな。』
――お礼はこっちの方だ。転校生の俺に一番最初に話しかけてくれたのはお前だった。
『最近は高校にも行ったり行かなかったりで暇だからよ、よく空を見るんだよ。すんげえ広い青い空を見てるとよ、あぁ、この世界は一つに繋がっていてどこにでもあっという間に行ける気分になるんだよな。あぁ、俺はひとりぼっちだけど沢山の人達が周りにいるんだなぁ・・・って気分になるんだ。変だろ?
・・・・・・書きたいことはいっぱいあるけど何書いていいかわかんなくなってきたな。
とにかくだ。約束の日に行けなくてゴメン。だけど心はきっと、そっちに行くよ。
こっちにはしばらく来るなよ?
そして青い空が広がった時には俺を思い出してくれ じゃあ、またな。』
俺はいつの間にか出ていた鼻水とも涙とも言える水滴を拭った。
そうか。そんな気はしてたんだがお前、もう居ないのか。
だけど約束を守って来てくれていたんだな。ありがとう。
俺は丁寧に手紙を折りポケットへ入れる。
クッキー缶を持ち上げ土を払う。のろのろと掘った跡に土をかぶせ元通りにする。
振り返っても目を凝らしても耳を済ませてもあいつはいない。
その時強い風が吹いてきて思わず身体が仰け反った。
目を開けるとそこには小学校時代よく遊んでいた山と雲ひとつ無い晴天が広がっていた・・・。
遠くからケケケ・・・
笑う声がした。
おしまい
コメント
2015/03/26 20:51
1. こんないい話なのに。もっとみんな読んで欲しい!と思いました
返コメ