あなたはズルい。



私が駅で迷子になる人だからって

待ち合わせは改札出口なのに

出なぃで待っててくれるんだよね。




会った瞬間に疲れが吹っ飛ぶ様な笑顔をくれる。




コロナに気をつけて、なぁんて言って

携帯用の消毒液を両手に優しく掛けてくれる。




自分のバッグは自分で持ちたい私なのに

平然と取り上げて颯爽と歩く。





今日はキャメルのタバコぢゃなくなってたね。




タバコを吸うその横顔が懐かしくて

ちょっと歳を取って垂れた瞼も

少し弛んだ頬っぺたも

なんだか可愛く思えたんだ。





あなたは相も変わらず苦労人。

でもなんだかあなたらしくて好きなんだ。





優しい声も、落ち着いた話し方も

早口の私とは大違い。



いつも諭されてるように聞こえちゃうのは

私があなたに愛を感じていたからなのかな。


ははっ、私が子供なだけか。





あなたに会うのが久しぶり過ぎて

前みたいに気軽に名前で呼べなかったよ。




でもあなただって私を呼び捨てに

しなかったぢゃない。




だからって二人っきりなった時に

急に呼ぶなんて反則過ぎる。





いつもお会計の時に私は千円札を

あなたのスーツのポケットに忍ばせる。



それをあなたは私の知らない所で

バッグのポケットに入れるの。



やっぱりあなたは昔となぁんにも変わってないね。




夜道を歩きながら

もう愛でも恋でもない仲なのに

急にカップル繋ぎをしてくる悪いあなた。



相変わらず小さいけど優しい手ね。





" 俺とちなみの仲だろう "



なんでもそう言えばいいなんて思ったら

大間違い。





38歳の私。


57歳のあなた。





16年経った今も


あなたの中で生き続けている私。


私の中で生き続けているあなた。





昔に約束を果たせなかったと

あなたは未だに

そしてこれからも悔いているけれど

もうそれは時効。



夢のままで良かったのかもしれないね。


あなたには守るべきものがあるんだから。





それにね。

私はあなたの思い出を塗り替えられる程の

愛を注いでくれる人に出逢えたの。




だから、もう大丈夫。

だって私、今幸せだもの。