【半ぐれ銀行マンの天下取り】 18 二人を試す
2月の空気はまだ冷たかったが、姫路支店の奥まった 支店長室は冬とは別の熱を帯びていた。
改装されたばかりの支店長室は、深い木目の机と重厚なカーペット、
そして中央に鎮座した黒皮の回転椅子が、 まるで“城主の玉座”のように威厳を放っていた。
立夫は、その椅子の背にもたれながら ゆっくりと回転させた。
「……ええ椅子や。」背もたれが身体を包み込み、 腰の沈み具合が完璧だった。
銀行に入ってから12年。 苦渋、屈辱、左遷、懲戒免職。 最悪の奈落から、ここまで這い上がった。この椅子に座るために、すべてがあった。
窓越しに見える姫路城の白壁を眺めながら、立夫は自嘲のように笑った。
「やくざ支店長か」
最近は、銀行内でも外でも、立夫へのその呼び名がすっかり定着していた。
・丸刈り頭
・180センチ超の大柄な体格
・威圧するような眼光
・土下座を要求する常務にすら言い返した胆力
・反社や夜の世界にも通じる噂
どれを取っても、 銀行員”の枠から外れている
「支店長、ほんまに守ってくれそうや。」「裏切ったら殺されそうやけどな。」「でも、あの人についていったら勝てる。」
恐怖と尊敬が入り混じり、一種のカリスマ性になっていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おはようございます、支店長!」
海棠常務から送り込まれた二人、野田明美 と中野純子が ドアを静かに閉め、同時に一礼した。
朝の光が二人の髪とスーツのラインを照らし、支店長室の空気が一段引き締まる。
美貌と知性、そして常務直属の緊張感が漂う二人は、もはや支店の“象徴”になりつつあった。
「支店長、今日のスケジュールですが――」
純子はタブレットを片手に、いつものようにテキパキと説明を始める。
朝一の行内会議、不動産会社との融資交渉、午後の市役所との協議、夕方は姫路経済クラブの会合――。
その声は落ち着いているのに、どこか艶がある。
立夫は、ふと苦笑した。
「仕事の内容より、おまえらの顔見てるほうが楽しみやな。」
明美が照れたように微笑み、純子はわずかにまつ毛を伏せた。
応接ソファに並んで座る二人を前に、 立夫は腕を組んだまま、低く語り始めた。
「ひとつは例の話や。 派遣会社に頼んでる“美女軍団”の採用や。」
純子と明美が息をのみ込む。 既に噂は聞いていたが、支店長の口から明言されたのは初めてだ。
「おまえら二人だけでは、俺の計画は実現せん。色気だけではな 力不足や。」
明美が苦笑し、純子が眉を寄せた。 「支店長……色気だけって、さすがに言い過ぎではありませんか?(笑)
わたしたち、秘書として大抵のことは心得てますよ。」
立夫は鼻で笑った。
「おう、そら分かっとる。せやけどな―― 俺が求めてるのは“女を使って地場を動かす部隊”や。色気は武器の一つに過ぎん。
本番は知識や。法律、財務、交渉術、政治、人間心理。 総合力として戦える女やないと使えん。」
二人の表情が一気に引き締まる。
もう一つの任務はな と立夫は指を一本立てた。
「もう一つは……銀行内部の反主流派を洗い出せ。」
純子と明美が静かに息をのむ。
「俺のやることに反対する奴、俺を陥れようとした奴、ここに残す理由はない。邪魔者は、出ていってもらう。容赦はせん。」
その声は、銀行員ではなく、やくざ支店長そのものだった。
明美が苦笑しながら言った。
「……それにしても、“色気だけでは無理や”って言われるとは……ちょっと傷つきますけど(笑)」 純子も負けじと抗議する。
「ほんとですよ支店長。 わたしたち、見た目だけじゃありませんって。」
立夫はニヤリと笑った。
「ほうか。ほんなら――テストしてやろうか。」
二人が瞬時に背筋を伸ばす。何を言い出すのか・・立夫をまっすぐ見た
つづく