【愛しの美香】 16 日本新記録
男は胸元に手をあて、軽く会釈した。
「失礼しました。僕は日本陸連で育成部門を担当している者です。この近くの高校で陸上のコーチもしています……実は、僕自身も以前は短距離のトップランナーのひとりでした」
そう言って名刺を示し直し、真剣な眼差しで美香を見つめる。
その田村という男は丁重に告げた
「お願いがあります。もう一度、美香さんと一緒に走らせてもらえませんか。タイムをきちんと取りたいんです。それと……できれば動画も撮らせてほしい」
立夫の眉がぴくりと動いた。
「はあ? 動画やと? そんなん何に使うつもりや」
男は落ち着いて答える。
「もちろん、美香さんの走りを記録として残すだけです。才能がおありのようなのでこれからの育成の資料にもなります」
その横で聞いていた美香の顔がぱっと輝いた。
「走るん? ほんまに? やったるよぉ!」
両手を腰に当て、すでに地面を蹴る準備を始める美香。
その瞳には、未知の舞台へ挑む期待が宿っていた。
「仕方ねーか 走らせてやるか・・」
立夫は美香のあたまをなでて
思い切り走ってみろ!と言葉を投げたら 美香は奮い立った
田村が軽くうなずき、スタートラインに立った。
「用意はいいかい?」
美香は両手を握りしめ、地面を蹴る体勢を整える。
「うん、いくで!」
「よーい、どん!」
二人が同時に駆け出す。風を切る音、地面を蹴るリズム。立夫の心臓は高鳴り、思わず声が出そうになる。
美香の脚がしなやかに伸びる。男も全力で並走するが、美香は格違いの速さだった 軽々と引き離していくではないか・・
――速い、これは普通じゃない……。
ゴールのラインが見えた瞬間、男が押したタイム表示が光った。
11秒14! 日本新記録だった
「……ま、まじか……!」
田村は 呆然と立ち尽くした 見誤りか それともタイムの押しミスか 其の表示に目を疑った
美香はゴール直後も笑顔で息を整えながら、腕を高く振った。
「おじさん! 見て! あたい、勝ったよ!」
田村は目を細め、満足そうにうなずいた。
「素晴らしい……これは本物だ。君の才能は間違いなく、陸上の歴史に名を刻むレベルです」
田村の興奮した声とは裏腹に・・立夫は急速に不安が広がった
日本新記録を出した美香が 急に遠ざかっていく気がしたからだ
次の走りを動画に収めたいという 田村に怒りの表情を露わにした
「ええ加減にしろ! 動画なんて許さん!・・「何が日本新記録や 嘘抜かせ!美香、帰るんや!」
美香を怒鳴りつけた
美香は泣き出し 田村は唖然として 言葉を失った
つづく
コメント
2025/12/11 20:31
3. >>2 しがない平社員(再雇用)さん
そそ よくわかってますね・・(^^)
返コメ
2025/12/11 19:31
2. こんばんは。
身元調べられたまずいし。
万一それが上手く行って、選手になれたとしても、
施設でのことが掘り返されて、おじゃんに可能性もかなり高いし。
まず、この娘と離れ離れになるのが一番辛い。
(^o^)
返コメ
2025/12/11 16:50
1. 短距離だったのか!
返コメ