【愛しの美香】  27   田村の魂胆
30代前半  大阪府
2025/12/13 16:23
【愛しの美香】  27   田村の魂胆
田村は、奥歯を噛みしめた。

怒りを抑えようとしても、腹の底から煮え立つものが込み上げてくる。理屈ではなかった。 裏切られた、という感情そのものだった。

埼玉の住居は、田村が世話した。家賃の前払い、生活費。 無心されるままに、三十万も渡した。それだけではない。

競技に出るための出身校名義の借用。競技服、スパイク、遠征費。すべて、田村の自腹だった。

――未来への投資だ。そう自分に言い聞かせてきた。

なのに。あの野郎 「大阪に行く……だと?」

机を拳で叩く。

「ふざけるな……!」 田村自身、若いころは短距離で名を上げた。だがそれも一瞬だった。
鳴かず飛ばずの記録が続き、焦りの中で足をねんざした。その怪我が引き金となり、競技人生は下り坂に入った。

指導者としても大成できなかった。選手は育たず、実績も残らない。
そんな中で―― 美香の走りを見た。一目だった。

フォーム、バネ、加速。
「本物だ」と思った。

(こいつで、俺はやり直せる!)

自分が前に出る必要はない。マネージャーとして、裏に回ればいい。スポンサーを引っ張り、契約をまとめる。キックバックの話も、当然ついてくる。

美香は、打ち出の小槌になるはずだった。
それが――大阪だと?

「……くそっ、前島め!」

田村の頭に、あの男の顔が浮かぶ。
傍若無人に人の人生を平然と壊す男。

(あいつに、この話を壊されるのか……) このまま大阪に行かれたら、自分は何も残らない。
金も、名声も、希望も。 すべてを失うだろうと思った

田村は、上着を掴んで部屋を出た。

新宿の雑居ビル。 エレベーターを降りると、くすんだドアに小さな表札がかかっている。

個人信用調査・総合探偵事務所だ 中は、事務的で無機質だった。

「ご用件は?」 事務机の向こうの男が、淡々と尋ねる。

田村は、少し間を置いてから言った。

「個人の信用調査を頼みたい」 「名前は 住所は?」

田村は、渡された紙に書いた。 前島 立夫

相手の男は一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに平静を装った。

「調査範囲は?」 「……すべてだ」 過去、金、女、人脈 戸籍 前科  合法か違法か、弱みになりそうなものすべてだ

前嶋を調べたいのではない。叩き落としたいのだ。

前嶋を封じ込めたら、美香は戻ってくる。

(あいつさえいなければ……)

美香は、自分のものになる。自分が育て、自分が管理し、自分の手の中で走らせる。

むろん あの肉体もだ・・

つづく
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コメント

30代前半  大阪府

2025/12/13 17:09

2.  >>1 しがない平社員(再雇用)さん
(^_^)V

60代前半  愛知県

2025/12/13 16:52

1. こんにちは。
前島さんの田村さんの扱い酷いですものね。
気持ちが分からなくはないですが。
(^o^)

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