愛しの美香】 29 帰ってきたさくら
師走に入った
美香と出会って半年・・夢のような出来事の連続であったが まだその夢は続いているようなものだ
カラオケ喫茶「ミカ」の開店させて一か月 美香はメイクし 深紅の唇は立夫の好みで塗っていた
服装も相変わらず露出度の高い ビキニ水着やマイクロショーツで 客の応対というより
陸上のスーパースターとして 相変わらずの人気はあったが・・以前のようにメディアに追っかけられることなく落ち着きを見せていた
喫茶店をカラオケ喫茶にしたのは 客の意向だった 美香の唄声が結構いけたからだ・・
むろんそれだけではない 一段と可愛くなったことで もう連日の大盛況で 売り上げも急増していた・・
そんなある日の夕刻 夜の部のカラオケ喫茶の準備をしてたら
開店準備中と書いた 入り口ドアのベルが小さく鳴った。
立夫が「準備中です」よ と言おうと 出るとそこに立っていたのは——
なんと さくらだった!
「さ、さくらやないか!」
寒風が吹いているのに セーター一枚にマフラーを巻いてるだけ
少し痩せて、目のまわりに疲れが浮かんでいる。
けれど、あの懐かしい 顔を見た瞬間、時が巻き戻ったような気がした。
「おじさん・・」 か細い声だった。 「男に、ふられたの。全部、終わっちゃった」
立夫は黙ってさくらの冷たい肩を抱いて 店内に入れてやった
「さくらちゃーん」 と 美香が飛んできた
「もっと早くきたらいいのに 待ってたのよ」
「おい 美香 待ってたってどういうことや! 知ってたんか?」
「うん 昨日から知ってたよ」えへへと 美香が舌を出した
「すみません おじさん 美香ちゃんとは 時折連絡しあってました」
とさくらが 申し訳なさそうに ベコンと頭を下げた
「なんやねん 知らんのは俺だけかい?」 立夫は苦笑い
立夫は嬉しくて 涙が出そうになった
さくらとは 何回も性交し体の隅々まで知った女だ 男に走ってることに クソっと思ったりしたが
憎いはずもない 帰ってきてくれたらと何度思ったことか・・
「さくら 暖かい風呂に入れや・・旨いものも食わせたる・・それからゆっくり訊こうやないか 」
「おじさん ほんまにありがとう・・めっちゃうれしい!」
ポロポロ涙流して うれし泣きだ・・
「ウワーさくらちゃん 一緒に お風呂してーー」
美香は満面の笑顔で さくらの手をつないで 階上を駆け上がった
(神よ ほとけよ おうきに!)と 胸の内で手を合わせる思いだった
立夫は53年生きてきて 今ほどうれしい気持ちになったのは なかった
痴漢でつかまり 大阪予備校をクビになってから 2年、再び舞い戻ってきて こんな幸運な暮らしに
なれるとは・・
風呂から上がってきた
二人は 真っ裸のまま 立夫に抱きついてきた
おじさんありがとうと・・言いながらだ
おお!これこそがおれが望んでいる極楽やで~~
「もうええがな。三人で、やり直したらええ。 今は金もあるし、店もある。これからは 平穏に暮らそうや!」