昭和ロマン小説 8 【 黒田屋を日本一にしたる!】 
30代前半  大阪府
2025/12/16 17:04
昭和ロマン小説 8 【 黒田屋を日本一にしたる!】 
広間に集められた芸妓たち、番頭衆、世話役。 黒田屋の総勢70人が一同に揃った
その中央に 立夫と女将の光恵を迎えた。

「……立夫……立夫や……」

声が震え、言葉になる前に、体が動いていた。女将は、皆の視線などまるで意に介さず、立夫を強く、何度も抱きしめた。

「よう帰ってきた……」
「会えて……ほんまに、うれしい……」

それは挨拶というより、 長年抑え込んできた悔恨と歓喜の噴き出しだった。

芸妓たちは、息を呑んで見守る。
誰も笑わない。
誰も茶化さない。

この場が、黒田屋の歴史の節目だと、 全員が感じ取っていた。

「母さん……もうええよ」 立夫が、やさしく声をかける。

「挨拶、代わってくれ」

それでも、みつえはもう一度だけ、立夫の背に腕を回し、小さく頷いた。

「……すまんね。 うれしゅうて、つい……」

女将は一歩下がり、立夫を皆の前へ押し出した。

「みんな聞いてくれ 吉原には3百人抱えた楼があると聞く」

立夫の声が、広間に響いた。 「黒田屋の四倍や。せやけど、俺は、それを抜くつもりや  芸妓だけではあかん 限界もある。 女郎もいれるつもりや」
まずはこの飛田新地で 最高の遊郭にしたるんや」

ざわ、と空気が動いた。
誇張でも虚勢でもない。
腹を据えた男の声だった。

女将・光恵は、その言葉を聞いた瞬間、堪えきれずに泣き出した。

「……立夫……」

肩を震わせ、声にならない。立夫は、少し照れたように言った。

「母さんな、泣くなよ。 みっともないやろ」

光恵は、涙を拭いながら、泣き笑いで答えた。

「……そうかい。すまないね」

広間に、やわらかな空気が戻る。 立夫は、続けた。

「それと、もうひとつや」

人差し指を立てる。 「俺は将棋と浪曲が好きや。 せやから、ダチを一人連れてきた」「隆司いうてな、独り身や」

芸妓たちの視線が集まる。

「金はない。 冴えた顔でもない。 せやけど、将棋と浪曲だけは 俺より一丁前や」

くすり、と笑いが漏れた。

「おまえらは 年季奉公の身やから、 今すぐや言う話やない「せやけど、年季が明けたら、誰か、嫁に行ってやってくれへんか」

場が、あたたかくざわめく。

「それと……」

少し間を置き、肩をすくめる。 「風呂はおまえらと 一緒らしいが……俺のち〇ぽは 小さいから、 見んといてくれよ。恥ずかしいやろ」

一瞬の沈黙。次の瞬間、
「くすっ」
「ふふっ」
と、笑いが広がった。

だが、光恵は真顔で、 珠代に尋ねた。 「……珠代、ほんとかい?」

珠代は、間髪入れず、 きっぱりと言った。

「そんなこと、嘘です」  一同、息を呑む。 

「若旦那さまのは……ご立派でした」

一瞬の静寂のあと、
広間は大爆笑に包まれた。

芸妓たちは腹を抱え、番頭衆まで肩を震わせる。

張りつめていた宴の空気は、その一言で、すっかり溶けたのである。

つづく
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