【半ぐれ銀行マンの天下取り】  68    負けてたまるか!
30代前半  大阪府
1/2 9:03
【半ぐれ銀行マンの天下取り】  68    負けてたまるか!
立夫は、支店長室のドアの前で一瞬だけ立ち止まった。
ノックはしない。ここは、つい先日まで自分の城だった場所だ。
正月明けに姫路に戻ってきた、千賀子を同伴していた。 新支店長に無言の圧力を加えるためだった。

扉を開けると、空気が一段、張り詰めていた。
中には2人の女がいた。
ひとりは、紺のスーツを完璧に着こなした斉藤由梨。
そして――もうひとり。

「……聡子……?」

立夫の喉から、掠れた声が漏れた。 暮れに、凌辱して容赦なく叩き出した女。内部告発まがいの動きを見せ、立夫自身の手で切り捨てたはずの存在。

その聡子が、ゆっくりと立ち上がり、口元だけで笑った。 「暮れには、本当にいろいろと“お世話”になりました」

その笑みは丁寧で、完璧だった。だが、眼だけが違う。冷えきった敵意が、隠しもせずに立夫を射抜いている。

(何でここにいるんだ?)

立夫が言葉を失っていると、斉藤が一歩前に出た。明らかに、この場の火花を察知した動きだった。

「……それよりも」

斉藤は視線を千賀子に移し、深く一礼した。 「なにかとご配慮を賜り、ありがとうございます」

聡子も一拍遅れて、完璧な所作で頭を下げる。

「千賀子様、ご無沙汰しております。 本日はお目にかかれて光栄です」

千賀子は微笑んだまま、何も言わない。ただ、その沈黙自体が圧力だった。

――海棠専務の娘。
――そして、立夫の妻。

この姫路支店だけではない 全行内で彼女の存在を軽んじる者はいない。

千賀子がその気になれば、ここにいる全員の人事は一夜で書き換わる。 それを、斉藤も聡子も、痛いほど理解していた。

「どうぞ、こちらへ」

斉藤は即座に判断し、千賀子をソファへと案内した。主導権は、誰が握っているか――それを明確にする配置だった。

全員が着席する。 斉藤は書類に手を置き、穏やかな声で切り出した。

「過去の経緯については、ここでは触れません。大切なのは、これからです。
姫路支店の信用と理不尽ともいえる 風評から立て直すため、皆さんのお力をお借りしたい」

建前としては、完璧だった。 だが、立夫の胸の内は、収まらなかった。

「……ちょっと待ってくれ」

低い声が、室内に落ちた。

「俺は、支店長を降りただけだ。銀行を辞めたわけやない」

斉藤の視線が、ゆっくりと立夫に向く。

「本部長預かりとはいえ、籍は残っとるはずや。
それに――」

立夫は、はっきりと言った。「今、俺が持っている権限。それについては、承知してもらってるよな?」

空気が、凍った。

聡子の唇が、わずかに歪む。 斉藤は一瞬だけ目を伏せ、次の一手を測っている。
千賀子は、相変わらず黙ったままだが 斉藤に向けられた 斉藤は千賀子との視線が合うと 気弱に目をそらした

この部屋で、誰が主で、誰が従なのか。暗黙の了解がそこにあった

(俺には千賀子がいる。 おまえらには負けん!)



つづく。
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