【半ぐれ銀行マンの天下取り】  77    世界一の超高層ビル
30代前半  大阪府
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【半ぐれ銀行マンの天下取り】  77    世界一の超高層ビル
これは、あくまでも計画に過ぎない。
だが、その言葉を口にした瞬間、立夫の視線は揺らがなかった。

盆前だった。
SK開発企画株式会社が実質稼働に入り、採用された3人の秘書たちは、朝から晩まで電話に追われていた。
東京、大阪、名古屋。建設会社、ゼネコン、証券、外資ファンド、海外メディア――
受話器を置いたかと思えば、すぐに次が鳴る。

理由は明白だった。
1か月前、立夫は姫路市長と面会し、こう言い放ったのだ。

「城の横に、世界一の高さと階数を誇る建築を建てます」
会議室に一瞬、沈黙が落ちた。
冗談と受け取る者はいなかった。
同席していた住友不動産の支店長、大手ゼネコン幹部の顔つきが、それを物語っていた。

「……世界一、ですか?」

市長は慎重に言葉を選んだ。その声音には、半信半疑と、わずかな興奮が混じっていた。
立夫は微笑んだだけだった。

「ええ。世界一です。高さも、階数も。日本一では、意味がありません」

その瞬間、市長は悟った。この男は“話題作り”で言っているのではない。補助金目当てでも、選挙対策でもない。
本気だ――と。

もちろん、計画は荒唐無稽に見える。姫路だ。東京でもドバイでもない。
だが立夫は、すでに数字を握っていた。

・土地は国有地払い下げ
・金融機関は複数行シンジケート
・不動産会社は名義貸しではなく実務参画
・高さは暫定で900メートル超
・階数は170階想定

「夢物語だ」と笑う者ほど、この男が“夢を現実に変えてきた履歴”を知らない。
秘書の一人が、控えめに声をかけた。
「社長、海外メディアからです。
“なぜ姫路なのか”と……」
立夫は立ち上がり、窓の外を見た。
白鷺城の天守が、夏の陽に静かに浮かんでいる。

「なぜ、ですか……」
低く、しかし確かな声で言った。

「日本の象徴は、東京じゃない。 姫路城という歴史と権威が共存する場所でなければ、世界一は意味を持たない」
受話器の向こうで、誰かが息を呑むのが分かった。
計画は、まだ紙の上だ。
だが――
すでに歯車は、回り始めていた。

つづく
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