【冥土からのラブレター 新婚2か月で失った妻】 出会い
その会社を訪ねたのは、ただの業務だった。
立夫にとっては、数ある取引先のひとつに過ぎない。受付フロアに足を踏み入れ、名刺入れを確かめながらカウンターに近づいた、その瞬間までは。
「いらっしゃいませ」
顔を上げた女性と視線が合い、立夫は一拍、言葉を失った。
整いすぎない顔立ち。派手ではないが、清潔で、静かな光を帯びている。受付という場所に似合う丁寧さの中に、不思議な温度があった。
「総務部の、○○さんをお訪ねしてまして」
名刺を差し出すと、女性は両手で受け取り、きちんと目を落とした。
「少々お待ちください」
名札には、光知子とあった。
内線で用件を伝える横顔を、立夫は無意識に見ていた。仕事として身につけたはずの所作が、作り物に見えない。
用件を終え、受付に戻ると、光知子はもう一度、穏やかに頭を下げた。
「本日はありがとうございました」
それで終わるはずだった。
だが、立夫は足を止めた。
「……あの」
自分でも理由の分からない衝動だった。
二週間後、立夫は再びその会社を訪れた。仕事の口実はいくらでもあったが、受付に彼女の姿を見つけたとき、胸の奥で確かな安堵が生まれた。
「先日はどうも」
光知子は一瞬考えるように目を細め、それから微笑んだ。
「はい。覚えています」
それだけで、何かがほどけた気がした。
短い会話を重ね、帰り際、立夫は思い切ってコーヒーに誘った。
「今日でなくても、別の日で」
少し考えたのち、光知子はうなずいた。
約束の日、落ち着いた喫茶店で向かい合い、二人はゆっくり話した。特別な話題はない。ただ、言葉が自然に続いた。
ふと、会話が途切れた瞬間、光知子がカップに視線を落とした。
「あの……変なことを言うかもしれませんけど」
ためらうように顔を上げる。
「私、ずっと前に会ったことがあるような気がするんです。初めてなのに、初めてじゃない感じがして……」
立夫はすぐに笑えなかった。
胸の奥で、説明のつかない静かな揺れが広がっていた。
「……実は、僕も同じことを思ってました」
光知子は、ほっとしたように小さく笑った。
それ以上、その話は深めなかった。
深める必要がないと、二人とも分かっていた。
恋は、静かに始まった。
理由の分からない縁だけを残して。
コメント
2/6 17:53
3. まさか、純愛系ですか。エロいのも期待しますよ~。
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2/6 15:12
2. どんな恋になるのでしょうね🤗🥰
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2/6 8:17
1. 新しいやつですね(^O^)
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