【冥土からのラブレター 新婚2か月で失った妻】 3 癒される日々
それからの二人は、派手なことは何ひとつしていない。
だが、会うたびに、確かに何かが積み重なっていった。
休日の午後、公園のベンチに並んで座り、缶コーヒーを飲むだけの日もあった。
光知子は風に揺れる木々を見て、ふっと微笑う。
その横顔を見ているだけで、立夫の胸は満たされた。
映画に誘うときも、彼は自然と作品を選ぶようになった。
重たいテーマや陰鬱な映像は避け、少し明るく、最後に救いのあるものを。
光知子は暗い話や、暗い場所をどこか本能的に嫌っていた。
理由を問うことはなかった。
立夫はただ、その感覚を尊重した。
映画館を出たあと、夕暮れの街を並んで歩く。
他愛のない会話が続く。
今日の空の色、さっきの登場人物の癖、次は何を食べるか。
その一つ一つが、奇跡のように思えた。
光知子は、笑うとき、どこか無垢だった。
天女のようだ、と立夫は思った。
作られた可愛らしさではない。
必死に生きてきた人だけが、ふとした瞬間に見せる、無防備な美しさだった。
彼女の微笑みは、立夫の心を静かに癒した。
仕事の緊張も、過去の焦燥も、その前では輪郭を失っていった。
一方で、光知子は自分の弱さを隠さなかった。
母の病、将来への不安、金銭の心配。
それらを声高に訴えることはないが、言葉の端に滲ませる。
立夫は、それを受け止める役目を、自然に引き受けていた。
守っている、という意識すらなかった。
ただ、そばにいたかった。
気づけば、立夫の中で一つの感覚が芽生えていた。
これは偶然ではない。
計算でもない。
運命的な出会いなのではないか、という静かな確信だった。
恋は、燃え上がるものではなかった。
ゆっくりと、しかし確実に、心の深いところに根を張っていく。
立夫は、その進行を止めたいとは、微塵も思わなかった。