【冥土からのラブレター  新婚2か月で失った妻】4 立夫の葛藤
30代前半  大阪府
2/6 6:53
【冥土からのラブレター  新婚2か月で失った妻】4 立夫の葛藤
 次に訪れたのは、お盆だった。

 照り返す陽射しの中、二人は郊外の墓地に立っていた。
 光知子の父は、数年前、交通事故で突然この世を去ったという。
 立夫は詳しい事情を聞いていない。ただ、その事実だけを、彼女の口から一度だけ聞いた。

 光知子は無言で柄杓を取り、墓石に水をかけ、丁寧に雑草を抜いた。
 動きに無駄がなく、どこか祈りそのもののようだった。

 立夫は、少し距離を取って、その背中を見ていた。
 夏の薄いワンピース越しに伸びる背筋。
 俯いた首筋。
 その姿は、美しいという言葉を超えて、厳かだった。

 やがて、光知子は静かに手を合わせた。
 目を閉じ、何かを心の中で語りかけている。
 立夫は、その横で頭を下げながら、不意に胸を突かれた。

 ――自分は、この人にふさわしいのだろうか。

 理由は分からない。
 ただ、そう思った。

 立夫は、部品会社の後継ぎだった。
 父が興した工場は、従業員五十人を抱え、経営は安定している。
 いずれ自分が継ぐ立場にあり、世間的には恵まれた身分と言っていい。

 だが、墓前に佇む光知子の姿を見ていると、そうしたものが急に軽く感じられた。
 肩書きでも、金でも、埋められない何か。
 人としての深さのようなものに、及ばない――そんな感覚だった。

 光知子は、立夫の境遇をほとんど知らない。
 聞こうともしない。
 それが、逆に彼の胸に刺さっていた。

 墓地を後にする車中で、立夫は決めた。
 隠す理由はない。
 飾る必要もない。
 自分がどんな場所で、どんな責任を背負って生きているのか、知ってもらおう。

 数日後、立夫は光知子を、部品工場へ連れて行った。

 油の匂い、機械の音。
 作業着姿の従業員たちが、黙々と持ち場をこなしている。
 光知子は、驚いたように、しかし真剣にその様子を見ていた。

 事務所に入ると、父が立ち上がった。
 寡黙な人だったが、光知子を見ると、深く頭を下げた。

「息子がお世話になっています」

 光知子も、同じように頭を下げた。

 その瞬間、立夫は思った。
 肩書きではなく、誇示でもなく、
 ただ、ここに立っている自分を、この人に差し出そう、と。

 恋は、次の段階へ、静かに踏み出していた。
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