タンポポだぜえ!
庭の草むしりをしていたら、裏庭で一輪のタンポポを見つけた。
「ふん、雑草だ」。
機械作業のように手を動かしていた私は、無慈悲にタンポポに手を伸ばしてむしり取…………
その時だった。
「お願い!殺さないで!」
声の主はどこからか、心の中に直接訴えてくる。
「タンポポ。君なのかい?」
タンポポは健気に咲いている。
裏庭の、あまり陽のあたらない片隅でも、その命を精一杯輝かせて、その短い花の生涯を全うしようとしている。
「……わかったよ。ごめんな。本当は太陽のあたる場所に移してあげたいけど、鉢植えじゃないしな。その場所で勘弁してくれよ。また水あげに来るでな」。
そう語りかけて、裏庭を後にした。
タンポポは、今も一輪、燐としてその命を輝かせている。
たとえ太陽のあたらない裏庭でも。
柄にもなく、一輪の花に、情けをかけてしまった。。