小野田寛郎氏が生前 「慰安所と慰安婦」 についてその実態を語った記録【3】
60代前半  石川県
2014/06/07 19:44
小野田寛郎氏が生前 「慰安所と慰安婦」 についてその実態を語った記録【3】
◆問題にして騒ぎ出す者たちの狙い


 次に、軍関与の暴論について証言する。


 私は二十歳で現役兵として入隊、直ちに中支の江西省南昌の部隊に出征した。

初年兵教育が終わって作戦参加、次いで幹部候補生教育、途中また作戦と、一ケ年一度の外出も貰えずに久留米の予備士官学校に入校してしまったから、外出して 「慰安所」 の門を潜る機会に恵まれなかった。


 だが初年兵教育中、古い兵士には外出がある。

外出の度にお土産をくれる四年兵の上等兵に 「外出でありますか」 と挨拶したら 「オー、金が溜ったから朝鮮銀行に預金に行くんだ」 と笑って返事をしてくれた。周りは周知の隠語だからクスリと笑うだけだった。

 南昌には師団司令部があった。

「慰安所」 には内地人も朝鮮人も中国人もいて、兵士は懐次第で相手を選んで遊んだのだろう。

私は幹部候補生の教育を、南昌から三十キロ以上も離れた田舎の連隊本部で受けた。


 「慰安所」 は連隊本部の守備陣地の一隅に鉄条網で囲まれて営業していた。

教育の末期に候補生だけで本部の衛兵勤務につくことになった。

もちろん勤務は二十四時間である。


 私は営舎係だったので歩哨に立たないから何度も歩哨を引率して巡察に出た。巡察区域の中に 「慰安所」 も含まれていた。

前線の歩哨は常時戦闘準備をしている。

兵舎内の不寝番でさえ同様だ。

鉄帽を被り、銃には弾を装填し夜間はもちろん着剣である。

その姿で 「慰安所」 の周囲だけならまだしも、屋内も巡察し、責任者の差し出す現在の利用者数の記録を確認する。

軍規の維持とゲリラの奇襲攻撃を警戒しているからである。


 考えてみるまでもない、そこで遊んでいる兵士は丸腰どころではない。

もっと無防備で不用心な姿の筈である。

その将兵を守るべき責任は部隊にあるのは当然だ。

それに性病予防の問題もある。

そんな田舎に医師や病院がある筈がない。

性病予防のため軍医や衛生兵が検査を実施するしかない。


 「慰安所」 の経営者は中国人だったし、日本では当時公認の娼妓と呼ばれた女たちも中国人だった。

彼らも食料やその他の生活用品が必要だ。

大人数なのだから、それなりの輸送手段もいる。

辺鄙な場所だから部隊に頼る以外方法がない。

部隊が移動する時もそうなるだろう。


 私の話す湖北省の言葉もだいたい通じたので、経営者と立ち話をして彼女たちについてそれなりの様子も聞き出せた。

今でも 「慰安所」 の両側に部屋のある中廊下を巡察した不粋な自分の姿を思い出すが、こんな漫画にもならない風景が現実にあったのだ。

これは私の部隊だけではないと思う。



 もう六十年も昔のことである。

時代が変わり、また平時と戦時の違いもある。したがって娼妓(ここでは慰安婦に相当する)に対する解釈も当然変化している。

そうであるにもかかわらず、すでに証拠も不完全になっていることを幸いに、今更これを問題にして騒ぎ出す者たちの狙いは何なのか。

言えることはただ一つ、不完全だからこそ喚き散らしていれぱ、何かが得られると狙っているということだ。



 戦場に身を曝し、敵弾の洗礼を受けた者として最後に言っておく。

このことだけは確かだ。野戦に出ている軍隊は、誰が守ってくれるのだろうか。

周囲がすべて敵、または敵意を抱く住民だから警戒を怠れないのだ。

自分以上に強く頼れるものが他に存在するとでも言うのならまた話は別だが、自分で自分を守るしか方法はないのだ。


 軍は 「慰安所」 に関与したのではなく、自分たちの身を守るための行為で、それから一歩も出ていない。


 「異常に多く実を結んだ果樹は枯れる前兆」 で 「種の保存の摂理の働き」 と説明されるが、明日の命も知れぬ殺伐とした戦場の兵士たちにもこの 「自然の摂理」 の心理が働くと言われる。

彼らに聖人君子か、禅宗の悟りを開いた法師の真似をしろと要求することが可能なのだろうか。


 現実は少ない給料の中から、その三分の一を 「慰安所」 に持って行ったことで証明されている。

有り余った金ではなかったのだ。

「兵隊さん」 と郷里の人々に旗を振って戦場に送られた名誉の兵士も、やはり若い人間なのだし、一方にはそうまでしてでも金を稼がねばならない貧しい不幸な立場の女性のいる社会が実際に存在していたのだ。

買うから売るのか売るから買うのかはともかく、地球上に人が存在する限り、誰も止めることの出来ないこの行為は続くだろう。

根源に人間が生存し続けるために必要とする性さがが存在するからだ。


 「従軍慰安婦」 なるものは存在せず、ただ戦場で 「春を売る女性とそれを仕切る業者」 が軍の弱みにつけ込んで利益率のいい仕事をしていたと言うだけのことである。

こんなことで騒がれては、被害者はむしろ高い料金を払った兵士と軍の方ではないのか。



「正論」一月号より





小野田さんたちの証言をこの先も引き継いでいくのが、今を生きる私達の役目ではないだろうか。
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