合わせ鏡
40代後半  兵庫県
2018/08/26 18:17
合わせ鏡
僕はカウンターでバーボンを傾けていた

悪いことをした
いや
これが正義だったと喉を熱くしていた

5年前
僕は、決して愛してはいけない女性を愛した

ゆみ

気立てが良くて
しなやかな娘だった

そう
きっと僕より
ピアノを愛していた

あんなに人を愛したのは
15年ぶりだろうか

僕には
最後の恋と決めていた女がいる

だいちゃん

かなは僕をそう呼んだ

まだ学生だった僕たちは
気候も季節も
ベッドでしか感じることはなかった

毎日求めあうことだけが
人生の道しるべだった

「ねぇ、だいちゃん」

ある日かなが、不安そうに尋ねた

「赤ちゃんできたらどうする?」

それが質問ではなく報告だと理解するのに
時間は必要なかった

僕らは
学生結婚という
華々しい世界へ向かった

僕の父は銀行マン

世間で言うとエリートなのだろう

毎年家族旅行は海外で
ピアノが好きな父は
好んでヨーロッパを選んだ

僕はラフマニノフの故郷ロシアに行きたかったけど
父はラフマニノフを好まなかった


かなはラフマニノフが好きだった
「鐘の音をね。いつも故郷を想って入れているのよ」

ラフマニノフの亡命先には度々訪れて
僕はラフマニノフの曲を沢山演奏していたのに

ラフマニノフの曲には
ロシアの鐘の音がちりばめられていることを
僕は知らなかった

ますますかなを愛しく思い
新しい命にも鐘を鳴らした

かなと僕は二人の宝を授かった

父が銀行員だったので
僕もそつなく銀行員になった

毎日帰宅することだけが僕の幸せ
その他の景色は
見る余裕もないほど
僕は
満たされていた

幸せというのは
積み木より簡単に崩れるのか

僕は
レクイエムの鐘を鳴らすことになった

夕暮れ時

山のお寺の鐘がなる頃

かなと子供は天に召された

いわゆる轢き逃げだった


だけど葬儀の際
かなはキレイな顔をしていたので
僕は泣くことも忘れた

本当に逝ってしまったのか

「だいちゃん」
と、ベッドでせがんだ時に赤らめる頬もそのままだった

「大輔さんですよね。はじめまして、父が大輔さんのお父様にはお世話になっています」

見知らぬ女性に声をかけられたが、父の知り合いの娘だとわかると
僕は妙に安心した

いや
父の知り合いだからではない

かなと同じ

頬を赤らめていたから



「全部忘れさせてあげる」


かなの葬儀の数日後
女は僕の部屋にいた

生ぬるい風になびくゆるい巻き髪

かなより随分大人の香りがする

「大輔くん。私をかなさんだと思って」

思えるわけがない

僕のかなは世界で一人

甘いバーボンの香りが僕の唇を包む

僕は

僕の男を

抑えることはできなかった




父同士が知り合いだったこともあった

僕はバーボンの香りの女
マイと付き合うことになった

愛情などは感じたことはないが
僕を男でいさせてくれる
唯一の道具だった

マイの父親は官僚で
マイはいわゆるお嬢様

もちろんお稽古事も熱心で
ピアノもなかなかの腕前だった

かなとよく似ている

違うのは

モーツァルトが好きなこと

そして
すでに僕ではない誰かの命を育んでいること

そう
マイは未婚の母だった

学生結婚すら反対しようとしなかった父は

「マイさんを幸せにな」

と、祝福してくれた

かなとは叶わなかった生活

僕は
マイと
マイの宝と生きていく決意をした


新婚旅行はウィーンにした

ザルツブルク一の繁華街

モーツァルトの生家はここにある

「これ、やってみたかったんだよね」

マイは目隠しをしてピアノを弾くまねをした

モーツァルトはそういう教育を受けてきたのだが
僕にはその良さはわからなかった


暮らしはじめてわからなかったことは
目隠しだけではない

相変わらずバーボンの香りを毎晩漂わせ

自分の娘に毎日何時間も
ピアノを弾かせた

ただひたすら
モーツァルトを

「ミスタッチは許さない

目を閉じて弾きなさい」

そう言いながら
マイは氷のハーモニーを添えた

僕はたまらずマイを怒鳴った

そう初めてのことだった

「キミは間違えている」

「そうね。私は間違えているわ。あなたと結婚したこともね」

たった一度声を荒げただけで
こんな流れになるのか
いや
僕がマイを本当に愛していないことへの制裁なのか

だけど僕は
マイとマイの娘を
何とか大切にしようとした

それでも僕の心は見透かされているというのか


マイはかなり酔っていた
いや
酔っていたに違いない

そう信じたかった

「あなた、かなさんだっけ?
忘れられないんでしょ?」

僕は返答できなかった

「学生結婚?あんな貧乏人のガキと?
そんなこと、あなたのお父様が許すとでも?」

「どういう意味?」


「あんたの大好きなかなちゃんと子供を殺したのは、あなたのお父様。あなたのお父様が人を雇って殺したのよ
それを依頼したのは私の父。私の父はどうしてもあなたと私をくっつけたかったの。
官僚さまの言うことは、いくらでも聞くのよ?」

耳を疑った。
いや、疑っただろうか。

ほんとうはどこかで不思議に思っていた

かなは決して裕福な家庭の娘ではなかった。

それを
学生であるにもかかわらず
父が反対しなかったこと

だけど祝福もしなかったこと

僕の実家のピアノを
かなには触らせなかったこと

偶然すぎるタイミングで
マイと出会ったこと

父がマイにはピアノを触らせること

どこかで薄紫の煙が
僕の中で渦巻いていたのを
気づかぬフリをしていたのは
僕だった

追及はしなかった

マイの言っていることは
おそらく間違いない

僕はマイと別れて
毎晩飲み歩くようになった

スナックで知り会った
葵という娘がいた
まだあどけない21だった

葵は両親を亡くし
弟と二人で暮らしていた

あまりにもあどけない少女なので
僕には恋愛感情はなかった

「大輔さん、ちゃんと食べてるの?」
そう言って葵は一度部屋に招いてくれた

「キミはいい嫁になるよ」

「私は結婚する気はないわ」

そう笑って手料理を食べさせてくれた

クリスマス間際だった

もうすぐ僕の誕生日だからと
覚えてくれていた

彼女の弟が
おもちゃのキーボードを出してきた

「ほんとはピアノで弾きたいんだけど」

まだ中学生の弟は
ベートーベン月光1楽章を演奏し始めた

なんというせつないフレーズなんだろう

僕はこの曲が嫌いだ

嫌いなのには理由がある

僕は毎晩
父が帰宅するのを外で待っていた
何時間も何時間も

母は気づいていたのだろう

よそに女性がいることを

「早く入りなさい」

ヒステリックに毎晩叱られた

しかし僕は

この月光1楽章のように
父への叶わぬ想いを月に見立てて

雲隠れする月を
毎晩探していた

あれから僕は
月光1楽章が嫌いになった

そして今は
かなと子供を想って月を眺める

そんな場面に
彼女の弟のピアノは
やさしく寄り添ってくれた

もしかしたら
かなに会えそうな気がした

僕はそれから
このきょうだいの面倒を見るようになった

決して
彼女の肉体を汚すことのない
父親のような役割を
僕は貫いた


かなに会えるかもしれない

そう想わせてくれる月光を度々聴きにいくほかに
僕は
かなを探していた

高層ホテルの最上階のバー

少しでもかなに近づける気がした

ピアノの生演奏がある洒落た雰囲気

今日はいつものピアニストではないな

ぎこちない演奏に興味をそそられる

「何か演奏いたしましょうか?」

リクエストに答えてくれるらしい

演歌などを言ってみたらどうなるのだろう

そんな意地悪をいうわけもなく

「キミの好きな曲を」
と言った

「なんでもいいですか?」

不安そうに尋ねる彼女に優しく微笑んだ

穏やかなバーの空気が一変した

彼女が選曲したのは

ラフマニノフの「鐘」だった
正しくは前奏曲嬰ハ短調

「鐘」というのは愛称だ


穏やかな鐘の音から始まり
しだいに激しく降下する
まるで今の僕のようだ

僕は言う間でもなく
彼女の虜になった

彼女の出勤日には
バーへ通った

名前はゆみ

「一杯どうぞ」と勧めても
酒は飲めない娘だった

品のある
それでいて少し陰がある女性だった

しだいに二人で会うようになったが
僕は指一本触れなかった

「結婚するまではいけません」

彼女はそう育てられていた

それでも僕は
ラフマニノフを弾くゆみが欲しいと心底思っていた
かなとゆみを重ねていたのは間違いない

僕はゆみと結婚の約束をして
僕たちは結ばれた

真っ赤に染まったシーツが
僕の決意を奮い立たせた


翌日僕は
ゆみには内緒で、ゆみの自宅を訪ねた

ゆみの母親が出迎えてくれた

どこか懐かしい人だった

「ゆみさんを僕にください」

今度こそ
僕は幸せになる

そのスタートのセリフだった

「あなたのお父様を私は知っています」

そうか

どこかで見たことがあるのかもしれないから懐かしかったのか

恨んではいるものの
父親の肩書きそのものは決してムダにならない

「そうなんですね」

僕が微笑みかえした時


「ずっと交際しています。大輔くん。大きくなったわね」

あの時
月の光を眺めて
父を待ち続けていた時

隣にいたのはこの女性だというのか

ゆみの母親である
この女


「申し訳ないですが
ゆみとは別れていただきます
だいたいあなたは初婚ではありませんね?
その時点で認めることはできません」


それから僕は…


ゆみにひどいことをした

「お前、重すぎんだよ。うぜーな」
と、髪の毛を掴みあげ
額を壁に打ち付けた

許してほしい

ああするしかなかった


そして
酒の飲めなかったゆみが

度々酒を飲んで
男の玩具になっているという噂を聞いた


あれからすぐ、ゆみの両親は隣家から出火した火災で亡くなった

生き残った隣家の三姉妹を
ゆみのガードマンとして僕は雇った

と言っても
ゆみには決して知られることのないよう
どんな男と飲んで
どの部屋へ泊まっているか

翌朝ゆみが帰宅してから出かけるまで
三姉妹を交代で見張らせた


僕は銀行を辞めて
ゆみと出会った
この高層ホテルのベッドメイキングをしている

そう
ゆみが玩具になった後のベッドを
綺麗にしているのだ

これが
僕の罪滅ぼし


もうすぐ
クリスマス

いや
その前に僕の誕生日がある


僕はゆみを呼び出そうとしている

ゆみは必ずやってくる


こないだ
ゆみが使った部屋に小瓶が転がっていた

あれはおそらく媚薬だろう


それを今度は僕に使って

それで最後にしてほしい

夢にまでみたかなとの再会を

ゆみの手で………



鏡に映る僕は


世界で一番

幸せな顔をしていた





※これは、あたくしのフォロワーさまぽちこさんが書いた日記の「合わせ鏡」です
要するに、完全フィクションです
(* ̄∇ ̄*)疲れたよ。。

尚、ぽちこさんの日記をご覧になるのは全然OKですが
↑勝手に言うてるけど笑

あちらへのコメントはお控えくださいね
(どうしても大絶賛コメントしたい方のみあたくしが許可します)

これを読んであちらに行く方は
コメントはこっちへお願いします♪
↑ご迷惑かかるから!

てわけでぽちこさん!

完全に鏡あわせできたかわかんないけど
書いちゃいましたよん
(^_^)v


クズ男をなんとか
かっこいい男に仕立てあげたんだけど
ぽちこさんが書いたストーリーが細かすぎて
追いかけてストーリー作るの、大変でしたぁ笑笑






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コメント

40代後半  兵庫県

2018/08/27 13:32

21.  >>20 よしあきさん
その続きの執筆はお任せいたします
(* ̄∇ ̄*)

60代前半  東京都

2018/08/27 13:30

20. だいちゃん。かなは・・・というところを「だいちゃん。がはは・・」と読んで、田舎っぺ大将の話になるのかと思いました。

40代後半  兵庫県

2018/08/27 7:31

19.  >>18 ぽちこ(ニューカマー武将)さん
デート軍資金のために
小説を書く二人。。。

(* ̄∇ ̄*)気が遠くなるね

50代半ば  栃木県

2018/08/27 6:59

18.  >>17 ゆーみさん

あはは(´・・`)

こりゃデートするまでに
相当時間かかりそうだね(´・ ・`)

40代後半  兵庫県

2018/08/26 23:51

17.  >>3 ぽちこ(ニューカマー武将)さん
ぽちこさーん!
恭子ちゃんが
印税山分けして二人でデートしろだってさー!!

(* ̄∇ ̄*)エ?

40代後半  兵庫県

2018/08/26 23:50

16.  >>15 響子さん
あは
(* ̄∇ ̄*)それいいかも笑笑

rena[退]
40代後半  兵庫県

2018/08/26 23:47

15.  >>14 ゆーみさん
うん、ぜひ共作出版でd( ̄  ̄)

40代後半  兵庫県

2018/08/26 23:42

14.  >>13 響子さん
あたしは
何を目指しているのだろうか
(* ̄∇ ̄*)

いえいえ、
一人でも楽しんでいただけたなら
書いた意味がありますわ

いや、まずぽちこさまに感謝だわね(^_^)v

rena[退]
40代後半  兵庫県

2018/08/26 23:28

13.  >>12 ゆーみさん
大変Σ੧(❛□❛✿)

身をすり減らして(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

絶対、読者増えますd( ̄  ̄)

40代後半  兵庫県

2018/08/26 23:25

12.  >>11 響子さん
あぁぁぁぁぁ。・゜゜(ノД`)
なんてうれしいの。。

じつはこれ必死に書いて

めばちこできた
(* ̄∇ ̄*)

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