せっちゃん
65歳くらいの
近所でｽﾅｯｸを
経営する
おばちゃん



僕が宮崎に移住し
この家に引っ越した頃



洗濯物を
ほしていた僕を
するどい目つきで



睨みつける
人がいた




それが



せっちゃんだった




『あっ こんにちは』


『兄ちゃん一人者か』


『あっ はいっ』



『一人でこの家に 住むのか 贅沢な』




これが
初めての
会話だった



無いでしょ




徐々に
わかって
いったんですが



近所で
せっちゃんは
あまり
好かれていない



僕が
たまたま
町内会に
顔を出した時も



せっちゃんは
何かと でしゃばり



まとまりかけた事も
白紙にもどして
しまうような

おばちゃん




皆さんは
煙たがり




帰り道に
ｺｿｺｿと
悪口を言ってる
みたいな




まあ確かに
やたらと
人の家に来ては
余計な世話をやく




洗濯物は
こうやって
ほすんやぁ とか


窓ｶﾞﾗｽも
たまには 拭け とか



あっ はい みたいな



でも
何故か
近所の酒好きの
おっちゃん達に
ﾓﾃﾓﾃやった



不思議で
仕方なかった




ある日の夜


大声が
聞こえて
外に出てみると



せっちゃんの店
の方からどうも
喧嘩をしてるような



歩いて
見に行くと



店の外で
おっちゃんら二人
取っ組み合いの
喧嘩になっていた




『あのﾃﾞｭｴｯﾄはわしじゃ』



『いや わしの方が先に 歌ったんじゃ』




どうやら





せっちゃんとの
ﾃﾞｭｴｯﾄの
取り合い









あほかと









なぜ
人気あるのか
色んな角度から
見ても


さっぱり
わからなかった






そんな
ある日





飲みにこいと
せっちゃんから
言われ
超しぶしぶと
行ってみた





『まあいらっしゃい』








やっぱ
帰ろかと
思った










帰っても
家に押し寄せて
来るだけだと
思いなおした






ｶｳﾝﾀｰ席
5席のみの
狭い店内





お通しを
出してくれて
横にすわってくる
せっちゃん





『食べて』






その時
一瞬
僕は
思った












ちょっと
色っぽいと







入っては
いけない
世界に
入って
しまったと







『食べさせてあげる』


『あ～ん』


『あっあ～ん』









俺は
どこへ









うまぁぁぁ


めちゃくちゃ
うまいぃぃぃ


だしまき卵
の中に 鰻が
入ってて



なんか
おかんの味って感じで




何か
僕は
懐かしいような
込み上げて
来るものがあった



一緒に
酒を飲み
ﾃﾞｭｴｯﾄし


いつしか
せっちゃんに
対する気持ちが





おかんに
対するような
気持ちに
なっていた





荒くれ者の
酒好きのおっちゃん達が
来て 店を追い出された
僕は




家への帰り道
せっちゃんへの
感謝の気持ちで
いっぱいで


綺麗な星空を
見上げて
色んな事を
思い出した







せっちゃんは
旦那さんに
先立たれ

息子も七歳の
時に 病気で


結婚して 近くに
住む娘さんは
交通事故で
下半身麻痺





確かに
せっちゃんは
近所の嫌われ者かも
知れないけど






完璧な人間なんていない




誰でも
大なり小なり
過ちをおかす






て 言うか






俺は
せっちゃんが
大好き







娘さんが
遊びに帰ってきて






せっちゃんが
車椅子を押し
散歩中






洗濯物を
ほそうとしてる
僕の家の前を
通りすぎながら













『昼から 雨だ 馬鹿』











その後ろ姿に









あたたかい
母を 感じるんですよね










あんまり 無理したら
あかんでぇせっちゃん