梶山さんは 東北から やってきたんです｡

派遣社員として






はじめて 会社で 梶山さんを 見た印象は‥





大丈夫か‥ このおっちゃん

そんな印象の 梶山さん(54歳)でした｡





白髪頭で 体は小さく 痩せてて 肝臓が悪いような どす黒い 顔色‥



気になったんですよね‥俺






僕の実のｵﾄﾝは 50歳で 肝臓ｶﾞﾝで 亡くなりました｡









梶山さんの顔色‥

痩せこけた顔‥





めちゃめちゃ気になったんですよねぇ





始めて 休憩室で 話して それから 毎日 梶山さんは俺の側に 寄ってくるように なりました｡







正直言って 梶山さんは 仕事が できませんでした‥


ﾐｽが 多くて まわりの皆から 嫌われてました｡


態度も 言葉遣いもよくなかったしね‥





休憩室でも 話すのは 俺だけでした｡





とにかく 梶山さんは 金が無くて 仕事ができなくて 言葉たらずで‥







ﾀﾞﾒよﾀﾞﾒﾀﾞﾒじゃぁ～ん

って 誰もが 思っていたはずです｡





例えば 仕事中 問題が起きて 皆が 右に 必死に 走ってる時に‥



左に の～んびりと 歩いて行ってるような‥



段々と 皆は 怒りを通り越して どうでもいい人に なって行ってたんですが‥



俺の中では



段々と ｵﾓﾛｲ人に なっていったんです








だってね

朝礼で ﾘｰﾀﾞｰが 超真面目に 話してる時に‥





鼻かめます？

堂々とｱｸﾋﾞできます？

屁こけます？





それらをした後 俺の方を 見て ﾆｺってか








こっち見るなぁぁあああ






何度も 必死に 笑いをこらえましたよ 俺





屁をこいた時の 女の子達の 嫌がる 顔ぉおおお





梶山ぁぁあああ





最高でした











そのくせ 女好きなんですよ


まぁ 俺もですけどぉ







何とか 必死に

梶山さんの 数少ない 良い所を 女の子達に 一生懸命伝えて何とか



一度だけ 飲み会をひらきました｡








みごとに 女の子達全員 途中で 帰りました


まぁ 予定通りでしたけどね













乳は 揉んだら あかんわ




確かに 巨乳やけど





ﾓﾐﾓﾐはあかんわ





我を忘れすぎ





できるものなら
俺かて







で？







この後 風俗 連れて行けってかぁあああ







そんな金 あるかぁああ

ﾎﾞｹぇええ














梶山さんは 身内がほとんど居ないらしいんです｡



一度 結婚もしたらしいんですが‥奥さんは亡くなったとか‥








孤独な人なんです｡







俺の中で 実のｵﾄﾝの姿は 50歳で 止まってるんですよね｡



だから いつしか 梶山さんの事を ｵﾄﾝって 呼ぶように なっていました｡





年代 酒好き 女好き‥

かぶる所が 沢山あって ほっとけなかったんです｡





ただ‥

ｵﾄﾝの悪い所は 感謝の言葉を 言わない所なんです‥





缶ｺｰﾋｰ おごっても ﾀﾊﾞｺ一本 あげても‥


ありがとうって 一言を (言わない)んです｡





ありがとうって 魔法の言葉やって 俺は思ってるんですが‥





(言わない)んですよね



まぁええわ

って俺は いつも 流してたんですが‥



それを 見てる 他の仲間達は 毛嫌いしてしまって


梶山さん 損してるなぁて 思ったりも しましたが‥





俺は ほんま全然よかったんです



もう少し 親孝行したかったって 想いを 少し させてもらえてる様な 気持ちにも なれたんで







そんなある日‥





新規の一大ﾌﾟﾛｼﾞｪｸﾄに 僕達仲間が 選ばれたんです｡





それは それは めったに無い ﾁｬﾝｽでした





気合いを入れ





後 数名 『君達が好きなように 人を選んでくれたらいいから』と 言われ





その中の 一人に 僕は ｵﾄﾝを 押したんです｡






仲間は‥




え ﾊｧ
って 感じでしたが‥






そこはもう ごり押しで行きました｡





思ってた通り



とても 大変なﾌﾟﾛｼﾞｪｸﾄで 三ヶ月間 死にもの狂いで やり遂げました｡





後に 表彰され 遠い目標に一歩近づいた瞬間を 味わったんですが‥









ｵﾄﾝへの 不満は皆 限界でした｡


選んだ 俺にも 不満を言う奴も 出てきてました｡



もちろん わかってたんです こうなる事も ああなる事も‥





でも 一緒に 成し遂げたかったんですよね



普通の人が 10やる所 ｵﾄﾝは 3しか できなかったとしても 残りの7は 俺が やったるって 思うくらい‥


一緒に 成し遂げたかったんです｡







皆には 誤りました｡

ありがとうの言葉を そえて‥










そして
ｵﾄﾝは‥









今年いっぱいで 会社をｸﾋﾞになりました｡





とても 残念でしたが‥





世の中甘くは
ないですよね‥





仕事が 出来なくて 誰かにﾌｫﾛｰしてもらっても 感謝の言葉も 言わない‥



それでは 人間関係がﾀﾞﾒに なってしまいますよね‥







言葉で 伝えるって ほんまに 大切な事ですよね｡











これから 何処に行くのかも 教えてくれない ｵﾄﾝを‥

昨日 駅まで 見送りに 行ってきたんです‥





小さな ﾎﾞｽﾄﾝﾊﾞｯｸﾞ一つだけが ｵﾄﾝの荷物‥










『行き先を 教えないなら せめて どっかに 落ち着いたからって事だけは 連絡して下さいね』





『ああ あ あ 後‥』





ん？






何？









何か 言いたそうに ﾎﾞｽﾄﾝﾊﾞｯｸﾞの中を まさぐり出したんです‥？







え







ええ











ﾀﾊﾞｺ‥
ﾜﾝｶｰﾄﾝ











『あ あ あ‥ああきらあ ありがとうなぁああ』














(言わない)じゃ なかったんや




(言えない)やったんやぁぁあああ







声をふるわせ
めｰいっぱいの顔して










もっと一緒に
酒のめばよかったっすね






その一言だけ 言って ｵﾄﾝは 足早に 改札を抜けて 消えて行きました｡





左足をひきずり 少し右肩を 下げた 歩き方で‥







その後‥




僕は 大好きな場所に行きました｡








めっちゃ綺麗な夕日だった