「ハグ」 の ススメ
40代後半  千葉県
2018/04/15 7:51
「ハグ」 の ススメ
数年前の早朝、車に乗って出勤途中に貰い事故に会った事がある。

信号無視の車が 、交差点を直進する俺の車の後部に右側から思いっきり突っ込んで来た。

俺の車は追突された後部をスピンさせながら中央分離帯に乗り上げ停止。
突っ込んで来た車は、進行方向 左側のガードレールに衝突して 停止。



追突された瞬間 「死ぬ」と思った、、、
それほどの衝撃だった。
走馬灯などは頭の中には出てこなかったが、
その瞬間は、娘たち二人の顔がハッキリと浮かんでいたのを覚えている。



数分間 気を失っていたのだと思う。
偶然 事故を目撃した人が、車に駆け寄り 運転席側のガラス窓をノックして、必死に話し掛けていた。
遠くから呼びかけてくる声が だんだんうるさいくらいに聞こえてきて、俺は意識を取り戻した。

ドンッ ドンッ ドンッ「大丈夫か~~っ!」
ドンッ ドンッ ドンッ「大丈夫か~~っ!」

目の前が霞んで見えて、うるさいくらいの声の方を見ると、60代と思われる 白髪混じりの初老のおじさんだった。
「天国の番人か?」
「それとも地獄の、、、」
ぼんやりとそんな事を考えていると、
目を覚ました俺を見て、天国の番人とも地獄の番人ともつかない初老のおじさんが 大声で俺に呼びかける。

「大丈夫かっ! 生きてるのかっ!」

やたら唾を飛ばしながら、興奮した様子で 俺に呼びかけてくる。

“窓ガラスが割れてなくて良かった~~
ガラスが無かったら、俺の顔 おじさんの唾で べちゃべちゃ になるだろうなぁ、、、
不幸中の幸いだよ~~”

そんなことを考えながら、俺はまた意識を失ったらしい。

(今 考えるとあの時は意識を取り戻したのでは無く、本当に天国か地獄の番人に話しかけられていて、番人に唾をかけられたら 死んでいたとか、、、笑、、、
まぁ そんな事はないか)


次に目が覚めたのは 救急車の中で、寝心地の悪いストレッチャーに横になって、酸素マスクを口にあてがわれていた。
ぼんやりと目を開けると、救急隊員が目を開けた俺に気付き、直ぐに話し掛けてくる。

「聞こえますか?
聞こえたら、ゆっくりでいいので瞬きを一度して下さい!」

俺は隊員さんに言われた通り、ゆっくりと一度だけ瞬きをした。

「では、これは何本に見えますか?」

隊員さんは、俺の顔の前で ピース サインをして見せた。

“おいおい、人が事故って大変な時に ピース って、、、
せめて、指一本か三本だろ! ”
と 心の中で、ツッコミながら
「二本です、、、」と
ゆっくり答えた。

「では、住所とお名前と電話番号を伺ってよろしいですか?
ご家族にご連絡しますので!」

そんな質問にいくつか答えていると、救急車は病院に到着した。

救急の入り口には、医師とナースが数人いて、救急車のバックドアが開くと 素早く医師とナースが駆け寄って来る。
隊員が慣れた手つきでストレッチャーを車から出し下ろして、医師に引き継ぐ

病院内でなんだかよく分からない、検査を散々して、病室に入ったのは午後12時を過ぎた頃だった。
頭を強く打って、意識が飛んでいたらしく、
事故直後と病院に来るまでの記憶が曖昧で、たまに 吐き気を覚えた。

病室まで付き添ってくれた “森三中” のメンバーであっても 違和感の無い 恰幅のいい、べてらんのナースが、しばらくの安静を 半ば命令口調で言ってきた事に反感を感じたが、言葉を発する事が少し億劫に思えて、素直に頷いた。
そんな べてらんナースが感心する様に、
「あと少しぶつかりどころがズレてたら、あなた死んでたらしいよ!
運が良かったね~~、、、(^ν^)」

べてらんナースの言葉に動揺し、その言葉が暫く頭から離れなかった。
“あと少しで死んでいた、、、”

暫くの間、その言葉を頭の中で繰り返し呟いていると、病室に慌てて近寄って来る足音が聞こえてきた。
病室の前で立ち止まって、何か ブツブツ呟いている。

「サトウ、、、タナカ、、、、、カズキ、、
よし ここだ!」

病室の入り口に名前が書いてある名札を確認して、足音の主は静かに 病室に入って来た。

「カズ! カズ! 大丈夫なの?」

蚊の鳴き声のような声で、弱々しく声をかけるのは、長女のコトネだった。
神妙な面持ちで俺に話し掛けて来る。

少し からかってやろうと思い、目を半開きにして、両手をピクピク震わせながら、コトネに弱々しく呟く、、、

「くっ くっ くっ くるしぃ~~
はっ はっ はっ はやくぅ、、、」

と、ドリフのコントのような 下手なセリフにも拘わらず、コトネは真剣に俺の言葉を聴き逃すまいと、俺の口に耳を近ずける

「何! 何! 何か必要な物があるの?
何を早くして欲しいの?」

と、今にも泣き出しそうな顔をしながら、コトネは俺の手を強く握り話しかける
こんな状況だと、三文芝居でも 全く気づかれない。


「ビッ ビッ ビールが飲みたい、、、」


と、誰が聞いても分かりやすく、滑舌良くサクッと言ってみた


高校1年生には、この冗談は全く通用せずに、娘の顔は “竹内 力” バリの気合の入った、極道フェイスに変わっていた


「、、、おい おっさん! マジで死ねや!」
( *`ω´)


病院で 言っては いけない言葉ランキングの
ベスト3に入るだろう この言葉を、高1の女子とは思えないほど、ドスの効いた低い声で
ベッドの上の死に損ないの中年に、コトネは吐き捨てるように言ったのだ。

「あははははは~~っ !
そう怒るなよ コト~
死の淵から見事に生還したんだぜ!
ビールの一杯くらい飲んでもバチは当たらないさっ !」


「そんな事 言ってる場合じゃないでしょ!
本当に大丈夫なの?
脳みそ以外にどこか具合悪い所はないの?」

軽くバカにしてるのか、本気で心配してるのか、真顔で聞いてくる娘の顔を まじまじと見た。

“本当にこの子は優しいんだよなぁ~、少し天然なところがあるけど、、、”

と 我が娘を見ながらそんな事を考えていると、病室の外から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。

「カズちゃーん、カズちゃーん!」

カズちゃんと呼ぶのは次女の ホマレだった。
すかさず コトネが病室の入り口にホマレを迎えに行く。


長女のコトネは、俺がいる病室に名前を確認して入って来る、次女のホマレは恥ずかし気もなく 病室の手前から俺の名前を呼び、誰かが声を掛けてくれると思って病室を探す。
同じ環境で育ってもこれだけ 性格が違う、、、
本当に子供は面白い、、、


コトネの姿に気づいたホマレは、

「どこ どこ? カズちゃんは どこ?」

声だけしか聞こえないが、俺の事が心配で慌てている様子の声が聞こえた。

コトネがくちびるに人差し指を押し当て、
“し~~っ ”
と する姿が、想像できた。

ホマレは、「ごめん コト~(>_<)
つい慌てちゃって、、、」

中学1年生らしく、可愛いく 姉のコトネに謝っている。

病院までは学校の先生が付き添ってくれたらしい。


ホマレが病室に入って 俺の顔を見るなり


「カズ ちゃん 死にかけたんだって!?
ボリューミーな看護婦さんに聞いたんだけど、も少しタイミングがずれてたら、死んでたんだって?
マジ ヤバくない!
それで、今 ちゃんと生きてるし!
ガチでヤバ~い!」

[あせあせ(飛び散る汗)] 森三中、、、:(;゙゚'ω゚'):、、、
余計な事を、、、


本当に性格の違う二人を見て、笑うしかなかった。







最初に コトネが病室に入って来るまでの間に、考えていた事を、娘たちに真剣に話をした。


「まじめな話をしていいか?」

急に真顔で話し出した 俺を見て、コトネが心配そうに聴いてきた

「えっ どうしたの?
脳みそ痛いの?
カズ 大丈夫?」

“やっぱり マジで脳みその心配をしてるんだな この子は 笑”

「コト 最初に言っとく!
脳みそは異常無い!!
そして、脳みそとは言うな!!!
せめて、 “あたま” と 言ってくれ!!!!」

ついさっき、竹内力 バリの形相を見せた女子高生は、“ごめん”と申し訳なさそうに言い こちらを覗き見る。


「今朝 事故にあった瞬間に、“死ぬ”って思った。
その時 お前たちの顔が浮かんできて、もう一度だけでいいから、死ぬ前に 抱きしめたかったなぁ~ って強く思ったんだ
それが、死ぬ前の最後の望みだった、、、
だから、これからは いつ何事かが起こってもいいように、出かける時には “ハグ” をして出かけたいと思ってるんだ。
どうかな?」

「別にいいんじゃない、減るもんじゃ無いし(笑) カズちゃんとハグするの嫌じゃ無いし^_^」

と、次女のホマレはニコニコしながら快諾してくれた。
長女のコトネを見ると少し戸惑っている感じが見て取れた。
暫く考えて、申し訳なさそうに 俺に言う

「 あのさ、 “カド ”じゃダメかな?」
( カド とは、ハグのように軽くではなく、思いを込めて強く抱き合う事)
「カズがいつ死んでもいいようにね」

「えっ!、、、いいよ!
コトが言うなら カドでも何でも
うん! いいよ」

思わぬの申し出に、ビックリしながらも
二つ返事でOK
でも、俺が死ぬ事を前提で真剣に考えるところは、さすが まじめなのか、天然なのか良く分からない、、、(^_^;)




その後、今朝の事故の覚えている事の一部始終を冗談を交えながら娘たちに話して聴かせた。


30分ほど3人で話をして
病院の待合室でホマレに付き添ってくれた女性の先生にお礼を言い、娘達と先生を見送った。


「じゃ、気をつけて帰れよ!
先生も本当にありがとうございました。」

そう言って、試しにホマレに向かって、両手を広げて 目で合図した。
なんの抵抗もなくホマレは俺の懐に入って来て、軽くお互いの背中を“ポンポン”と叩いた。
続いて コトネに向かい両手を広げて目で合図する前に、コトネは俺の懐に入って来て、胸におでこをぶつける。

「カズが死ななくてよかった、、、」

涙ぐんで聞こえる小さな声でそう言った。

「あ~ きっと神様が、俺の動きをほんの少しだけずらしてくれて、そのおかげで 俺は今
お前達と一緒にいられるんだ。
本当に良かった、、、」

言い終えると、恥ずかしいのかコトネは俺の顔を見ずに、さっ と踵を返して行ってしまった。

その様子を見ていた先生が にこやかに言う。

「ご家族 仲がいいんですねっ」


「先生、今日から仲良くなったんだよ^_^」

と 笑いながら嬉しそうにホマレが先生に言う。


「じゃーな、気をつけて」

数メートル先を歩いているコトネに追いつくように、ホマレと先生は足早に帰って行った。




“あれ~ 先生の名前 なんだっけ?
どーしても思い出せなかった~[あせあせ(飛び散る汗)]
アキバ? アキモト?
確か アキ がついたんだよな~”


そんな事を考えながら病室に戻った。
その夜は、念のために病院に一泊しなければならなかった。


“あ~~ ビール飲みたい!”










その後も、出かける時にハグをする習慣は続いている。
言葉では分からない、何か心が通う瞬間であるような気がする。
照れたのは最初だけで、慣れてしまえば お互い意識せずに、心を通わす事が出来る。



そして 今日も ハグをする
いつ自分に何があっても後悔しないように









何人の方がこの文章を読んでくれるか分かりませんが、あなたが大切だと思える人がいたら、ハグ をして 心を通わせてみてはどうですか?
何かあった時に後悔しないように、、、、
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コメント

40代後半  千葉県

2018/04/15 11:20

2.  >>1 ともさん
とも さん 稚拙な文章読んで頂きありがとうございます。
是非 “ハグ” を試してみて下さい^_^

70代以上  埼玉県

2018/04/15 10:24

1. 初めまして。 

いいお話しでした。
ハグ生活、取り入れていこうと思います(^^)v

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